カオサンでのクリスマス



バンコクに帰ってきたのは夕方過ぎ。
12月の25日、クリスマスということもあって、カオサンの辺りは以前来た時より更に人で溢れていた。

長時間のバス移動で疲れていたが、せっかくのクリスマス、盛り上がっていこう。

ということで、ネット屋兼ゲストハウスにチェックインしてカオサンに躍り出た。


適当に飯を食ってブラブラしていると、若い姉ちゃんに声をかけられてマッサージ屋へ。
例によって姉ちゃんは単なる客引きで、施術をしてくれたのはメガネの兄ちゃんだった。

この兄ちゃんがド下手くそで、的確にツボを一センチほど外してくる。力も強いので割と地獄。

タイで何度かマッサージを受けて気づいたのだが、下手なマッサージを受けている最中はやたら眠くなる。
上手なマッサージの方がリラックスできて眠くなりそうなものだが、血行が良くなるのかまったく眠気がこない。

この兄ちゃんのマッサージを受けてる間は断続的に襲いかかる痛みの中で眠気に沈んでいく貴重な体験ができた。

地獄の一時間が終わり、再びカオサンを歩く。

英語が達者な旅人は、クラブでねーちゃんをナンパしてお持ち帰りすることをよくカオサンでの楽しみの一つとして挙げるが、ナンパ術も英語力も0の上、クラブなんて陽キャな店に入ったことがない陰キャ丸出しな私には遠い世界の話だ。

だが今日はクリスマスで浮かれ気のせいか、なんとなくクラブにチャレンジしてみようという気になった。


カオサンで一番の有名店「The Club」は普段は誰でも入れる敷居の低いだが、クリスマスは客が多すぎるのか入場制限がかけられており、入店できなかった。ドレスコードで弾かれたとは思いたくない。


自分でも入れそうな店を探しているうちに夜が更けてきて、パリピタイムに突入する。
以前の記事でも書いたが、カオサンは夜9時を過ぎると陽キャパリピ以外お断りのハイテンション危険地帯と化し、ことさらクリスマスの夜となると、パリピであっても悪ノリできる人以外は孤立するくらいヤバい所になる。

あらゆる建物から爆音で音楽が流れ、パリピどもが路上で躍り狂う光景は陰キャの私には恐怖でしかない。

2年前にラグビーW杯の試合が故郷の札幌で行われたのだが、外人どもは昼間は大人しいものだが、夜になり酒が入ると発狂し、路上で暴れたり寝そべったりと問題行動を起こすようになる。

クリスマスブーストがかかり、W杯で見た以上に狂乱に陥った外人どもが自分の周りに大勢いる状況。下手すると命の危険まである。
酔っ払った外人は何をしでかすかわからない。その場のノリで刺し殺されてもおかしくない。

クラブ探しは避難所探しへと変わり、なるべくパリピが少なそうな店を探した。パリピどもの熱気に恐怖を感じつつも、クリスマスの思い出作りは諦めたくない。

「兄弟、どこ行くんだい。なんか飲んでけや」
と、メニューを持った白人の兄ちゃんに声をかけられ、屋外席に無理矢理座らせられる。

どっかのバンドによるクリスマスライブがよく見える席だ。周囲の客は比較的大人しいので、危険に巻き込まれるおそれはない。

そこそこの安全地帯で、ライブも見れる。ここならクリスマスの夜を楽しめそうだ。


私は酒が飲めないので、メニューのコーラを指さすと、兄ちゃんは突然

「はぁ!? 何…何でコーラなんだよ!?」とぶちギレ、

「ジュースならあそこで買えばいいだろ!?」とセブンイレブンを指さしながら発狂し始めた。

じゃあ何でメニューにコーラ載せてんだよとキレ返してやりたかったが、英語で怒りを表すボキャブラリーを持っていないため、謝って席を立った。


コーラを注文しただけでキレられるなんて、パリピは恐ろしい。自分は一生この輪には入れないことを実感した。


その後もさ迷い続け…と書くとカオサンは広そうな印象を与えそうだが、実際は端から端まで5分で到達できる距離である。
人で溢れているためなかなか前進できないので、実際より遥かに長い通りに感じる。

通りのどの辺りか忘れたが、場末のクラブを発見し、そこへ逃げ込んだ。

他のクラブのようなどんちゃん騒ぎはない。壇上ではレディボーイ(オカマのこと)が歌っている。

客層を見て安心。私のようにイケてない奴ばかりだ。
美男美女はおらず、見た目も陰キャ丸出し。
みんな同じ属性の人間でも、陰キャなのでパリピどものような一体感は生まれない。


落ち着く…。この環境は落ち着く…。


時折、近くにいる美のつかない男やねーちゃんと目が合い、笑みを見せあう。

外人は目があった時、敵意がないことを示すために口元に笑みを作ることがある。クラブという客が一体になれる場でそんなコミュニケーションが発生するのだから、みんなとんでもなく陰キャである。

コーラを注文しても怒られないので最高に居心地がよく、良いクリスマスの思い出になった。

夜12時を回った時、宿に帰ると、とっくに消灯されており中に入れなかった。

オープンタイムは朝6時。絶望した私は、朝まで糞暑いバンコクの放浪を強いられることとなった。

そして、この旅で最も印象深い出来事に遭遇する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?