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ラーメン屋さんがラーメンを食べたら必要経費か(必要経費と家事費)



1.はじめに(今回の前提)

タイトルからして、いつもと雰囲気が異なることを察していただけるのではないかと思います。今日はカジュアルで分かりやすく、所得税法における「必要経費」と「家事費」についてお話しする試みです。
私はラーメンを食べるのは好きですが、ラーメン屋さんの知り合いはおらず、ここで展開されるやり取りもあくまで私の脳内にあるものです(実体験から来たものではございません)。

ここでは、最終的に必要経費(一般的には経費)と認められるわけですが、あくまで個人的な見解であり、フィクションとしてお楽しみください。

2.ある定休日のラーメン屋にて(家事費と必要経費_物語編)

本日は「本格中華そば はなまる」定休日であるが、店内ではどうやら重苦しい雰囲気になっているようだ。
何故なら、今日は「本格中華そば はなまる」の店内では税務調査が行われているからだ。

税務調査官(以下、調査官):「ご主人、この「調査研究費」の勘定科目では、よくラーメンを食べに行った経費がたくさんありますね。それも同じ店に何度も。ご主人、これは本当にお店の売上に繋がるような経費と呼べるものなのでしょうか。」

店主:「素人が何言ってやがる!ラーメン屋が人気店のラーメンを食いに行くのは大事に決まってるんだろうが!
俺たちは常に味を研鑽しないとお客さんから見捨てられちまう!それに儲かっている店に行けば味以外にも何かヒントがあるかもしれないじゃないか!
あんたそんなこともわからねぇのか!!」

調査官:「我々もラーメン屋ではないので、その感覚的なところはわかりません。あなたは確かにラーメン屋さんではありますが、これが食事であることには変わりませんよね。副次的な効果として味の勉強などはあるかもしれませんが、主目的が食事なのであるのだとすると家事費とは言わないまでも、家事関連費ということになるのではないかと思いますけどね。」

店主:「税務署さんに職人の考え方なんかわかるわけねぇよ。それに家事費とか家事関連費とかわけわからない言葉を出して全く理解できないんだが・・・。」

どうやら話は平行線のようです。
お互いに少しづつ口調が荒くなっていき、気まずい時間が流れ始めました。

3.ある定休日のラーメン屋にて(家事費と必要経費_解説編)

それぞれの主張はこうなります。
店主:ラーメン屋が他の人気店でラーメンを食べることは、味の研鑽にもつながり、かつ、味以外でも人気店独自の取り組みがわかり自分のお店にも生かすことができるかもしれない。それは事業上の経費であるというわけです。
ちなみに、必要経費の条文は所得税法第37条において規定されており、以下のようになっております。

(必要経費)

第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(カッコ内省略)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(カッコ内省略)の額とする。

敢えて太字にしましたが、これらの所得(今回で言えば事業所得)を生ずべき業務について生じた費用に該当するか否かが争点になりそうなのはわかります。

調査官:ラーメン屋さんがラーメンを食べに行く有用性については理解を示しつつも、あくまでもそれは副次的な効果であり、主目的は食事ではないか。それは家事費(プライベートな支出を指します)と言わないまでも家事関連費(必要経費と家事費の要素が混在している費用)ではないかと主張しています。なお、青色申告者については、家事関連費については取引の記録などに基づいて明確に区分できる場合には、その部分(もちろん必要経費部分)については必要経費算入を認めています。ただ、このラーメン代に関しては明確に区分するのは困難(チャーシューは必要経費、麺とスープは家事費って言ってみる?)なため、全額が必要経費にはならない、と言いたいのでしょう。

4.ある定休日のラーメン屋にて(エビデンス(証拠書類)_物語編)

何とも言えない雰囲気中、店主の奥さんが現れました。

奥さん:「あなた、税務署の先生、お茶を淹れました。」

調査官:「お心遣いありがとうございます。ありがたく頂戴します。」

店主:「それを飲んだらとっとと帰ってくれないものかね!」

奥さん:「あなた、そのようなことは言うもんじゃないですよ。本当にすみません。」

調査官:「いえいえ、奥様はお気になさらないでください。」

奥さんの登場で殺伐とした雰囲気が和らいだ。

奥さん:「税務署の先生、先ほど隣の部屋でお二人のやり取りが聞こえたのですが、こんなものって何か役に立ったりしますでしょうか?」

そういいながら、奥さんは手垢まみれの一冊の大学ノートを調査官に手渡した。

調査官がそのノートを開いてみると、そこには店主が暇をみつけては他のラーメン屋にラーメンを食べに行った際の記録がこれほどかというぐらいに、殴り書きではあるものの記載されていた。

それは写真や麺の種類や硬さ、スープの味、料金設定に留まらず、訪問日、訪問時間、その日の天候、駅から徒歩での時間、駐車場の区画数、時間帯ごとの行列の人数、着席から着丼までの時間、待ち時間につまめるものの有無、店内・コップの清潔さ、トッピング(玉子・チャーシューなど)の温かさ、割りばしかリターナブルな箸か、時間帯ごとのスープの濃さまで、それはそれは事細かに。
自分の店で取り入れることができるか否か、その際のコストがいくらかまで概算で記載されていた。

調査官は、そのノートをパタッと閉じながら、目をつぶった。
そして、そのノートをゆっくりとテーブルに置いたのちに、奥さんが淹れてくれたお茶を口に含んだ。
そして店主にこう話しかけた。

調査官:「驚きました。これほどしっかりとしたエビデンスがあったなんて。エビデンスなんてないと決めつけた私が恥ずかしいです。確かに食事であるということは一義的にはありますが、指摘事項から取り下げます。」

店主:「なんでぇ、いきなり改まってよぉ。それにしてもエビデンスって何だ?日本語で言ってくれないか?指摘事項から取り下げるってのもイマイチ、ピンと来ないぜ!」

調査官:「失礼しました。エビデンスとは証拠書類のことです。これほど立派な書類は実際に現地に行ったことがない人、いや研究や調査をしようと思って訪れない限り書けるものではありません。指摘事項から取り下げるというのは、この調査研究費は経費だと私も納得したということです。」

店主:「なんでぇ、急に優しくなっちまって。。。おい、お茶に変な薬でも盛ったんじゃないだろうなぁ。」

店主は大声で、奥さんと調査官はクスクスと笑いました。

5.ある定休日のラーメン屋にて(エビデンス(証拠書類)_解説編)

調査官は、何故家事費若しくは家事関連費の主張から一転して必要経費を認めたのでしょうか。
それはエビデンス(この場合は、奥さんが見せた大学ノート)の存在が大きかったのだと思います。
だからといって、エビデンスがあればいいというものではありません。エビデンスを通じて、この度の他のラーメン屋さんでの調査研究費が必要経費として妥当である、という説得力があったからです。
タイムマシンがない以上は、税務調査ではエビデンスが重要視されます。
そこを勘違いして、書類さえあればいいと考える人もおりますが、それは事実と全く異なり、しっかりと実体を伝えることができるエビデンスに意味があるということを声を大にして言いたいです。

6.おわりに

食事代は原則は家事費で間違いありませんが、上記の状況であれば必要経費で私は問題ないと思いました。したがって、今回はこの結論になっております。
必要経費と家事費(家事関連費を含む)は、論点によっては明確な線引きは極めて難しいところであることから、人によって意見が異なるのは承知しているところです。このエビデンスがないといけないのはやりすぎ、このエビデンスでは足りない、そもそもこれは家事費だ、そもそもこれは必要経費に決まっているなどなど。
このような論点について、議論できる環境が整えばなぁと考えております。

なお、調査官と議論が噛み合わない雰囲気にしたかったので、店主は昭和の職人気質にして、その妻はそっちに引っ張られて昭和の奥さんの感じにしてしまいました。深い意味はありませんで、その点はあまり気にしないでいただければと思います。

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