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宣言明け、木曜日の酒場からこんばんは。

「今日なんか成果あった?」
「いや、老人の介護だけですね」もし問われればそう答えてやろうか。そんな気分だった。
数字にはならないが、ただただ時間を取られる。そんな客の相手で一日が過ぎる。
特段なにかあった訳じゃないけれど、些細なことに気が立つ、そんな日。

冷蔵庫の中身を思い浮かべながら自転車を飛ばす最寄駅からの帰路。まともな食べ物はないが、買い物する気も起きない。
緊急事態宣言が明けて、そうか、飲みに行けるんだよな...。
まだ木曜日だけど、気持ちはもう“無理”を迎えていた。

「生、中ジョッキで」
おしぼりを手渡されると同時に注文を聞かれて、迷うことなくそう返す。
間もなく、よく冷えたそれがカウンター越しに手渡される。
「いただきますッ!」
何ヶ月待っただろうか。この一口がどれだけ恋しかっただろうか。
家でいくらマイジョッキを凍らせようが、いくら居酒屋風おつまみを作ろうが、やはり酒場で手渡されたジョッキを間髪いれずに一気に流し込むこの瞬間は何事にも変え難い。酒場のジョッキには、魔法がかかっている。何をするでもなく、酒場の空気に浸るだけ。ただただ黙って目の前の一杯を味わうだけ。それだけの時間、何事をも忘れていられるこの時間がどれだけ恋しかっただろう。

お通しをつまみながら、有線の流行歌を聴き流す。そうか、カラオケにも行かないから、全部知らないや。まあ興味もないけど。

ほどなく串焼きが到着。アツアツ、ホグホグ。ゴクゴク。恐悦至極。最初の中ジョッキが一瞬で対消滅する。「すいません、レモンサワー」。ああ、濃いめで嬉しい。

周りは常連が多いみたいだ。宣言が明けてから初めての客も多いようで、「お久しぶりです、ご迷惑をおかけしました」なんて店員は言うけれど、いやいや、よくぞご無事で。

店員のおじちゃん2人のチャキチャキした動きを眺めながら、タイミングを測っておかわりを頼む。大縄跳びに飛び込むように、願わくば素敵な酒場の一部に溶け込んでいたい。

時間にして1時間少々。3杯と串焼きを満足するまで頼んで2,500円。大満足だ。また来よう。
店を出てまだ19時台。またしっかり明日の準備をして、あと一日、仕方ないからがんばりましょうね。ごちそうさまでした。

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