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汝、埋葬に能わざるべし

 いかにも、確かに吾輩は自分の息子を名乗るあの子供の首を斬り落とした。
殺人の罪は甘んじて受けよう。
 だが、我が子を殺した人でなしという汚名だけは断固拒否する。
 ……他の下賤な者共は、吾輩がこのように話すと、憐れんだ視線を送るか、鼻を鳴らして横を向くかのどちらかだが、貴君は違うようだ。
 頼みたいことがある。あの子供の首を決して繋げることなく、頭部を叩き潰すか、せめて頭部と胴体を別々に葬って頂きたい。
 疑問に思うのはもっともだ。恥を忍んで、吾輩とあの子供にどのような因縁があったのか、お話ししよう。

 全ては奥が子供を流したあの日から始まった。
無論、あれに何か責任があるわけではない。
 思えば吾輩のせいでいらぬ心労をかけ、憐れな女であった。せめて墓所で心安らかにしていることを祈らずにはいられぬ。
 おっと、話が逸れた。ご容赦願いたい。
 貴君も記録は調べているのだろう?
 そうだ、記録上は子供は産まれたことになっている。それは忌々しい東岸領に口実を作らぬためよ。
 豺狼の輩から我が領土を守るためには、何としてでも体面を取り繕う必要があったのだ。
 吾輩は本家と密約を交わした。奥と赤子の健康を名目とし、世間の目を避けて時間を稼ぎ、その間に然るべき血脈の男子を後継として用意する。そして、然るべき時に死者と入れ替えて辻褄を合わせる。
 1から1を引けば1というわけだ。所詮は皮算用、そうはならなかったわけだが。

 あの子供を見た時の最初の印象は……まあ、頭が大きい、だな。
 誰でもそう思うだろう?
 子供であることを差し引いても、何とも歪な容姿であった。
 本家から来たというあの子供と最初に接見した時、その狷介な雰囲気には閉口したものだった。
 しかし、口を開けば見た目とは裏腹な弁舌を奮い、流石は本家の血縁と納得させられた。
 あの時、子供の奇妙に古風な語彙と、馬車にこびり付いていた薄い血痕について考えが巡らなかったのは、吾輩の不覚であった。
(続く)

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