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Histoire De Zazie Films 連載⑩    雨の午後の降霊祭、あるいは、クソ邦題と呼ばないで。

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前回の記事はこちら☞ 連載⑨マイ・ライバル
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コピーライターではないし、大ヒット映画の後世に残る名コピーを作った実績があるワケではないけど、長年この仕事をしていると「これはイイ!」と、自分で自分を褒めてあげたくなる邦題やキャッチコピーが生まれることがたま~にあります。
『あの頃、君を追いかけた』(‘11)という台湾映画を配給宣伝した際の、“青春は、恥と後悔と初恋で作られる”というキャッチコピーは、後でテレビドラマのエピソードのタイトルに流用されたりして、「おっ!」と思ったりしました(邦題自体は日本でプレミア上映された際の、映画祭の方が付けたものです)。

そこまで言うのはおこがましいけど、こんな私にも“降りてくる”ことが何年かに一回かあるのです。そういう時の状態は、今回のタイトルのとおり、丸テーブルを囲んで座って、左右の人と手を繋いで祈っているうちにトランス状態に陥る、みたいな画を想像して頂ければ、当たらずとも遠からずです(ホントか?)。出勤中、だいたい権之助坂を下りて歩いている途中に降りてくることが多いです(笑)。

降りてこない時は、本当に何も降りてきません。ウンウン唸って七転八倒。邦題をいくつ考え出しても、一つもピンとくるものがありません。そんな時は深みにハマって絶望の淵。一度時間を置いて頭を冷やして…、などと言っていられない逼迫したスケジュール。社内の皆で出し合っても、誰からも名案が出てこない。私はいつも叫びます。「数合わせの案はいらな~い!」。…と言いつつ、一番どうでもいい題名を列挙しているのは、この私…。

さて。前回チラッと話題に出た『落下の王国』(‘06)の場合。
他の配給会社さんの作品で、宣伝プロデュース的な部分も担当させてもらっていました。映像美で有名なターセム・シン監督が、世界各地の世界遺産でロケーションした壮大なファンタジー。“落ちる”というのが重要なモチーフで、原題も「THE FALL」と言います。前作が原題のままの『ザ・セル』だったから、フィルモグラフィーの並び的にも『ザ・フォール』でも特に問題はない…という考え方もありました。が、『ザ・フォール』と耳で聞いても、目で見ても、何も想起しない。滝なのか?秋なのか?さえ分かりません。しかし代案が出て来ず日が経ち、もう原題のままで行く?と言う流れになっていた時に、降りてきました。『落下の王国』。
元々、昔から読み継がれているSF小説の古典の題名みたいなのがいいんだけどな…と考えていて思いつきました。原題のニュアンスもちゃんと入っていてバッチリだ!

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今も覚えていますが、もうこの日に邦題を決めなければ間に合わない、というタイミングの宣伝会議で、配給会社の方や劇場の方に、この邦題であるべき理由を説明した時は、生涯に残る(大げさ)名プレゼンだったと、またしても自画自賛してしまいます。どう説明したのかは全く覚えていないのですが、体がその感触を覚えています(笑)。


しかしこれで順風満帆にことは進みませんでした。その邦題決定から数週間経ったある日、それはカンヌ映画祭の最中に起こりました。すでにグラフィックデザイナーさんにチラシ、ポスターのメインビジュアルの作成を発注してカンヌについていた私に、当時の『落下の王国』の配給会社の担当の方が、通りですれ違いざまに言いました。「やっぱり題名、ザ・フォールにしました。ビデオのリリースを決めてくれている会社が「落下の王国」じゃダメだって言うんで」。たまたま会って、そんな大事なことを…。私は通りで崩れ落ちました(ウソ)。その後、無理やり時間をもらい、再度その担当の方を説得。時間はかかりましたが、その方も最後には納得してくれて(元々納得してなかったんかい?)、ビデオ会社の担当の方も説得してくれました。疲労困憊。

おかげさまで『落下の王国』という邦題は好評で(もちろん何割か一定数の否定派の方もいらっしゃいますが)、今も私は自分が付けた別の映画の邦題が、SNSで「クソ邦題」と名指しされているのを見つけて深く傷ついた時に、‘ 落下の王国 ’と、そっとタイトルを入力してエゴサーチして、「この邦題考えた人、天才!」とか「神邦題!」とか、何年も前の書き込みを読み返して自分を鼓舞しているのでありました(笑)。
ちなみに『落下の王国』。レンタルDVD発売時のタイトルは「ザ・フォール 落下の王国」でした(笑)。

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