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書評:高山峻『白隠禅師 夜船閑話』

東洋医学から見た『夜船閑話』

さて、前回の記事で少し言及した高山峻の『夜船閑話』を入手したので読んでみた。著者略歴等が書いてないので私にとっては謎の人物であるが、本文の様子から察するに著者の高山峻は漢方医かなんかのようである。易や中医学の事にやたら詳しいので、『夜船閑話』の原文にある謎の呪文めいた部分がだいたい分かるようになる。

このように、本文中に「䷾」とか易の記号が平気で出てくる。Unicode表でたまに見かけるけどこんな記号いつ使うんだと前々から思っていたが、こんなところで立派に役に立つことがわかったのも面白い。この記号、他の環境でちゃんと表示できてるんだろうか。

誠実ゆえに「しゃべりすぎる男」

本書の構成は、
・原文
・現代語訳
・注釈
というサイクルを、本文の数行ごとに繰り返すという誠実な内容になっている。いちいち巻末付録に行く必要がないので嫌でも原文を読むことになる。なので、著者が意訳した時になにか余計なことを紛れ込ませてもすぐにわかる誠実な編集方針である(もっとも、本書の場合そういうドサクサ紛れのことは見られなかった)。内容的にはほぼ同じものが2回続くため無駄といえば無駄のようにも思えるが、原文のニュアンスが分かるということはそれだけ内容の理解は早まる。小川隆『臨済録』やタチバナ教養文庫の『不動智神妙録』も同じような構成である。

なるべく「白隠」の部分をそのまま残しておいて、著者の解釈の部分はそれらに混入しないように意識しているのがよく分かる。....んだが、それを徹底するあまり、現代語訳のあとの注釈でさらに砕いた形の訳を長々と載せる、つまり同じことが正味3回繰り返されるという箇所がいくつかある。これさっき読んだよな?

また、「この部分は特に注釈すべきところはないが」と前置きした上で関連する項目を3ページに渡って説明していたりと、なんというか誠実ゆえにしゃべりすぎる人だなという印象がある。なんか親近感湧きますね。

本文中の「現代」がやたら古いが....

読んでてなんかヘンだなと思って巻末を見てみたら、初版が1943年4月15日と書いてある。こないだの直木文彦『白隠禅師 健康法と逸話』が昭和30年ですごいねと思っていたら、それをさらに上回る戦時中の本であった。だもんで、やたら西洋医学を敵視していたり、結核が「国民病」という扱いになっていたりと、本文に書いてある「現在」がやたら古いのが特徴である。そういえばなんだか本文印刷のフォントがなんか滲んでいる部分とハッキリした部分とに分かれているんだが、前者は当時の「写植」をそのまま使っているんだろうか(1975年に改訂新版とのことで、その時期のものかもしれない)。こんな本が2020年に書店流通しているとは正直驚きだ。まあ、これらは別に『夜船閑話』を知るのに特に関係ない事柄ではある。

というわけで『夜船閑話』の内容を知るためには申し分ない本だと思う。オススメ。


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