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詩・ショートショート

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#手芸

不可思議な宝石屋【詩】

ナイフを入れた桃から 溢れた果汁が 皮を伝ったときの雫とか 深海から掬い上げた原石が 初めて光った瞬間を 永遠に閉じ込めるとか そういう仕事をしている私は 不可思議な宝石屋と呼ばれた 大切なこと:慎重さ 意外に重要:お茶を嗜む余裕 せっかちが生むのは 石ころと火傷だけ 大ぶりのホログラムと 隠し味に超微粒子糸 自然の完全再現にひと捻り 人工味に瑞々しさを この営みを愛する私を 不可思議な宝石屋と人は言う

パッチワークを登って(後)【ショートショート】

念のため、バレないように目から上だけを隙間に出してみる。すると、見下ろした先にあったのは、土でできた道。ほとんど光は入っておらず、ジメジメした空気がふっと額に触れた。 そんな秘密の地下道の奥から、あの声が近づいてきた。息をひそめて目を凝らしていると、現れたのは二足歩行のウサギが五匹。オーバーオールやベストを着て、先頭は拳を上下に振りながら歩いている。後ろは、スキップする者、ヘトヘトな者、それを励ます者など、色々といるが、仲間内のハイキングのような雰囲気だ。 「「行くよ、行

パッチワークを登って(前)【ショートショート】

俺は開けた山道の中腹にいた。 右を向けば岩壁が聳え立ち、左を向けば曇天と、少し遠くに深緑の木々たちが並んでいる。霧もかかって幻想的ではあるが、今いる地点と木々の間には、底が見えない深い谷が大きな口を開けている。この山道には柵というものが存在していないため、何度も誘われそうになっては冷や汗をかいた。実を言うと、柵が無いだけが理由ではない。というか、もう一つの理由が大問題なのだ。 地面が、パッチワークの布団なんてあり得る? 水色、ピンク、黄色の水玉……色んな正方形の布が繋げ