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sumikaが作る全てのリスナーにとっての居場所

 sumikaの「Familia」という楽曲について、少し気になることがあった。"所縁はない 血縁もない 他人同士の僕らは 唯一の選べる家族としてさ" のフレーズが印象的なこの曲。結婚式をイメージして書かれた楽曲であり、MVも結婚式場を舞台とした多幸感溢れるものになっている。MVでは複数組のカップルが登場しているが、その中にはアジア系の男性とアフリカ系の女性だったり、親子ほどの年齢差だったり、さらには女性同士だったりと、他とは形が少し違うカップルも描かれている。

 "ダイバーシティ"の考え方は21世紀に入って急速に市民権を得て、マイノリティの声が取り上げられる機会は多くなった。自分は学識がないので社会問題に対してどうこう語れることはないし語るつもりもないが、そういった潮流はカルチャーにも少なからず影響する。映画だったりバンドのMVなんかにもマイノリティ、殊にLGBTが描かれることは少なくない。そしてそれらは必ずしも彼ら•彼女らにスポットを当てて特別な存在として描こうとするものばかりではなく、自分たちと同じように生活する存在として自然に描くことだってある。そういった作品に触れるたび、〔わざわざここでLGBTを出す意味はあるのか。そうする理由がないのなら普通の男女でいいのではないか。〕と違和感を感じてしまっていた。でもsumikaというバンドをより深く知ってから「familia」のMVを改めて見て、その意味が少し分かった気がする。

 sumikaというバンド名は「様々な人にとっての"住処"のような存在でありたい」という思いのもと名付けられたらしい。sumikaの楽曲の大部分の作詞を手がけるvo.片岡健太は「オレンジ」という楽曲で"ただいま おかえりが響き合い広がる 当たり前 いや違うね ありがとう なんだよね" と綴っている。誰にとっても同じように家族がいて、同じように居場所があるわけではない。生まれた時から家族がいない人、大切な家族を失った人、人間関係が上手くいかず孤独に苛まれる人…。それぞれがそれぞれにとっての居場所を切望している。形は違っても、誰もが同じ想いを抱いているからこそ、sumikaは全てのリスナーにとっての居場所を作りたいと願う。sumikaが目指す住処像は「オレンジ」で描いたような、"ただいま" "おかえり"が響き合う空間であり、それは彼らの楽曲全てに深く根ざしている。

 「Familia」のMVで年齢、国籍、性別といった枠を超えた恋愛を描いたのも、あらゆる人の居場所を作りたいという思いがあるからなのだろう。世間的にはマイノリティに押し込められる人々だって当たり前に生活していて、そこに理由なんてない。彼らもまた、同じように何かに憧れ、同じように誰かを愛して、同じように喜怒哀楽を感じながら生きている。だからsumikaは敢えてマイノリティに視線を向けているのではなく、今生きている全ての人に同じように寄り添うために歌っているに過ぎないのだ。それぞれのカップルが幸せを噛み締めるように互いの手を取って見つめ合うシーンがそれを象徴しているように思える。

 2ndアルバム「Chime」のラストに収録された楽曲でありながら、タイトルは1stアルバムの表題と同じ「Familia」である。sumikaが敢えてこのようなタイトルをつけた理由は、それぞれのアルバムに込めた彼らの思いを読み解けばきっと見えてくる。

 1stアルバム「Familia」。スペイン語で"家族" を意味する本作のタイトルは、あらゆる人にとっての居場所を提供するというsumikaのコンセプトにぴったりだ。「春風」や「ここから見える景色」のように、家族を描いた楽曲も多い。あらゆるリスナーにとっての居場所(ある種"住処"と呼べる空間)を目指すsumikaは、メンバーだけでなくスタッフ、そしてリスナーの繋がりを"家族"と捉えている。「Answer」で"心を叫ぶから 歌と詞に変えるから" とリスナーに向けて誓いを掲げ、「伝言歌」で"伝えたい" を全て言葉にして届ける。だから本作は、一人一人のリスナーの存在を大切にする彼らにしか描けない、家族のような暖かさを孕んでいる。

 そして2ndアルバム「Chime」。"sumikaが音楽を通してリスナーの住処のチャイムを鳴らしに行く"的なイメージのもと名付けられた本作でも、作品全体を通してメンバーとスタッフ、リスナーによる"家族"としての繋がりが大切にされている。いつでも気軽に立ち寄ることができて、辛い現実に打ちのめされる時だって暖かく迎え入れてくれる場所———sumikaが作り出すのはいつだってそんな空間だ。生活が大きく変化する春、慣れない環境で奮戦する新社会人の目線で描かれる「10時の方角」に始まり、大型タイアップ付きでsumikaというバンドの認知度を大きく躍進させた代表作が「ファンファーレ」「フィクション」と続き、最後には前作タイトルと同名の「Familia」で終わる。メディア露出やタイアップが増えて、バンドとしてさらなる成長を遂げても、sumikaというバンドが表現したい"住処"が前作と変わらず一枚のディスクの中に構築されている。だから「Familia」と題された一曲をアルバムのラストに収録したのだろう。

 「Familia」「Chime」で作り上げてきた"あらゆる人にとっての住処" は3rdアルバム「AMUSIC」でさらに完成された。本作に収録された「願い」なんかは特に、あらゆる人に寄り添う彼らにしか作ることができない一曲だと思っている。
 
 この曲を単なる女性目線の片想いの歌と捉えるのであれば、別に特別な存在と言うほどでもないだろう。実際、男性ボーカルのバンドが女性目線の恋愛ソングを描くこと自体はさほど珍しいことではない。クリープハイプなんか大半の楽曲がそうだし、back numberもマカロニえんぴつもドラマストアも女性目線の曲が多く人気を得ている。でも「願い」はそういった世間一般の恋愛ソングと同列に語るような楽曲ではない気がしている。それはこの曲が、ドラマ「おっさんずラブーin the sky」の主題歌として書き下ろされたものだからだ。本作は明確にLGBTが主軸にある作品であり、作品に合わせて書かれた主題歌と考えるなら、主人公も、想いを寄せる相手も男性と捉えるのが妥当になる。でも歌詞は「私」の目線で綴られ、想い人は「あなた」と表現されている。歌詞の手触りだけで、自分はずっと〔女性目線で描かれていて、相手は男性なのだろう〕と勝手に思い込んでイメージしていたが、それもまた俗に言うジェンダーバイアスなのかもしれない。「私」って、歌詞においては女性目線で使われることが多いものの、よく考えたら男性であっても十分に用いられ得る。そして主人公の想い人もまた、具体的な描写は為されていない。状況設定も情景もほとんど描かれず、描かれるのは誰に対しても同じように降り頻る雪くらい。それ以外は主人公の心境に徹底してフォーカスしている。MVでも、誰が誰を想いながらスノーグローブを見つめているのか、最後まで分からない。ただスノーグローブの中にはsumikaが誰の目にも同じように映る。つまりこの楽曲に描かれているのが異性愛なのか、女性同士なのか、男性同士なのか———それが明確でない分、リスナーの側がそれぞれに当てはめる余地がある。この曲は敢えて主人公を限定しない。だから、性別、年齢、国籍、そういった枠組みに関わらず、あらゆるリスナーが主人公に仮託して聴くことができる。sumikaだからこそ描ける、全ての人にとっての普遍的な恋愛ソングだ。

 その他にも「AMUSIC」には、正解の見えない現状も"溢れ出た誰にも似てないのが本物"と肯定し"諦めかけていた運命の向こうへ進め それが全てさ"とエールを送る「センス•オブ•ワンダー」、思い描いた理想に向かって傷つくことも厭わず走れと後押しする「祝祭」、目紛しく変化する日常への不安を感じながらも"無力と微力の違い"を御守りに一歩ずつ進んでいく決意を歌う「アルル」といったように、リスナーの背中を押してくれるような力強いメッセージを乗せた楽曲が多い。どれも周りからの評価なんかに囚われず、"自分がそうありたいと思う自分でいること"を肯定してくれる。こういった楽曲もリスナーと向き合い、リスナーに伝えることを大切にしてきたsumikaだからこそ描けるものだろう。

 sumikaはいつだってリスナーの感情に寄り添ってくれる。落ち込んでいる時は一緒に落ち込んでくれるし、苛ついている時は一緒に苛ついて、幸せな時は一緒に幸せを感じていてくれる。居場所がある人も無い人も、周りに理解してもらえず悩む人もそうでない人も、毎日の中で誰もが同じように感じる喜怒哀楽の全てに寄り添い、必ず味方でいてくれる。「ファンファーレ」や「Shake&Shake」に代表されるような前向きな応援ソングが多い一方で、大切にされないことへの恨みや嫉みを書き連ねてぶつける「No.5」や、喪失への後悔の感情を綴った「アネモネ」と、マイナスな感情を隠さずに見せる楽曲も少なくない。また、前向きな曲であっても決して綺麗事なんかじゃない。現実を直視した上でその弱さも受容し、少しずつでも前に進んでいけるよう背中を押してくれる。どんな感情にも寄り添い、理解者であってくれるのがsumikaというバンドであり、彼らが作り出す空間は誰にとっても居場所になる。

 片岡の言う"選べる家族" って、きっと結婚だけのことではない。誰もが最初から決まっている血縁とは別の新しい家族を知らず知らずのうちに選んでいる。バンドとリスナーの関係だってその一つだ。偶然の巡り合わせの中で出会えたsumikaというバンドを必要としてくれるリスナー(家族)がいるから、sumikaは"伝えたい"を歌に乗せる。sumikaの楽曲は本当に色彩豊かで、一つ一つの楽曲が全く違う色を見せている。季節、時間帯、場所、リスナーの境遇や精神状態といった条件に関わらず、いつだってリスナーに寄り添い、味方でいてくれる楽曲を見つけられること。そして"ただいま" "おかえり"が響き合うような居場所を一人一人の心の中に作り出してくれること。それがsumikaというバンドの唯一無二の魅力だ。

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