博xシュヴァルツ (?)

 喫煙室。
「シュヴァルツって煙草吸わないんだって。臭いがつくから」
 ドクターは受け取ったジッポで煙草に火をつける。ジッポを返しながら笑いかけた。
「へえ。それは……君のために?」
 シュヴァルツ。黒髪のフェリーン。しなやかな見目に反して、恐ろしく強いボウガンを得物にする、歴戦のオペレーターだ。
 時折はドクターの護衛に就くが、現在は先行偵察の任務でロドス本艦を離れている。そして仕事が無い時は、まるで影のように四六時中セイロンに付き従っている。彼女らがシエスタにいた時と同じように。
「わからないかしら」
 セイロンは慣れた仕草で受け取ったジッポを手慣れた仕草で小さなポーチに仕舞い込んだ。誰が言い始めたのか、お休みセット。ドクターの短い休憩時間を有意義なものにするためのグッズが納められていて、秘書担当のオペレーターたちが重宝しているらしい。
「あなたのためよ」
 吐き出された紫煙が、排気口へ吸い込まれていく。
「僕のために?」
 ドクターはセイロンに見せつけるように、煙草を掲げて見せた。
「全くおかしな話に聞こえるけど」
「おかしな話ではありませんわ。ドクター、少しは女心というのも分かっていただけませんと。アーミヤやケルシー先生にも見放されてしまうかも」
「それは困るな」
 煙草を口元へ。もう一吸い。紫煙を吐く。
「……女性というものは、好いた殿方の前では一番素敵な自分でいたいものなのですよ」
「シュヴァルツが、僕を?」
 冗談めかして振り向いたドクターを見据える目に、冗談の色は無い。
「私とシュヴァルツの仲ですもの。あの子がロドスへ来て変わった部分も、変わらない部分も、分かります。ですから、ドクター。その時が来たら、真剣に、考えてあげてくださいね」
 休憩はもう終わりにしましょう、そう言ってセイロンはさっさと喫煙室を出て行ってしまった。煙草はもうフィルター近くまで灰になってしまっているのだから、いい時間なのだろう。
 煙の染み付いた椅子に背を預け、ドクターは息を深く吐く。
「……参ったな」

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