616のマリア
マリアは葛藤を抱えた従順で自立したひとだった。
出会いがいつだったのかはわからない。忘れた。
気づくと、よくDMで会話していて、
マリアは私の体調を気遣ってくれることが多かった。
時折
ため息を吐くように、心の奥底のものをつぶやいた。
「彼とどうなっていくのかな」
マリアはM女という立場で、自称S男とつきあっていた。
本気で好きになってはいけない恋、だった。
周りはS男の不埒な交流関係を知っていて
またS男も虚勢を張るように自慢していて
そんな中でマリアは
非公開の女、だった。
S男は誰にもマリアのことを言わなかった。
「何でも許さないといけないのかな。
私は彼とどうなっていくんだろう」
別れなよ。と私は忠告した。
「そうだよね。分かってる。
でも、別れようとすると私の中の私が泣くの。
子供みたいにばたばたして泣くの。
なんでかな。わからない。
わからないってフリしてるんだよね。
わかってるんだ。本当は。
先のない恋なんて、別れるしかないって。
でも。できないんだ」
私とマリアはリアルで会ったことは無い。
ずっとチャットの会話だけ。
なのに、信頼があった。
おそらくマリアとS男より、強い信頼があった。
6月16日になると毎年、マリアを思い出す。
いつからかマリアも私もチャットから離れていった。
なのに
「誕生日は6月16日なの」
と教えてくれたマリアを今でも、思い出す。
いま、幸せになっていてくれれば、それでいい。
マリア。
有象無象のカオスだったネットの中で、
大好きだったよ。
マリア。
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