海と死
ほとんど眠れずに迎えた朝、1人で静かにベッドから出てホテルの階段をおり、海を見に行った。
ホテルの庭に面した堤防のいちばんそばまできて、そこから海を見下ろすと、ばちん、ばちん、と真っ暗な海水がテトラポットに繰り返しぶつかっていた。
あたしを食べようと、今か今かと目を見開いて、それでいて淡々と、こちらを見ていた。
そちらに手を引かれたら、すぐに全部奪われるだろうな。
食べられてしまう前にそこを離れて、浅瀬の、そのまま海に入れるようになっている半分海に浸かった階段の近くまで歩いた。
そこでは透き通った海のはしっこが、きらきら光って、とぷんとぷんと音を立てて笑っていた。
テトラポットの底に見たのと同じ海なのに。
その海は朝日に照らされていっそうきらきら、うるうるしてあたしを誘った
嵐の日だって同じ海なのに。
それをみてあたし、死んだら海になるんだと思ったの。
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