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〈マレーシア紀行1〉賭博黙示録クアラルンプール

 これは2007年、マレーシアの首都クアラルンプールで、筆者が実際に体験した話である。

〈CHAPTER1〉 希望の船

 ――5月21日 現地時間で午後5時30分。
 クアラルンプール郊外。マレーシア人の家の2階で、私はトランプを睨んでいた。
 アジア圏にありがちな、必要以上にクーラーのきいた部屋。
 であるにも関わらず、滝のような汗が噴き出し、シャツの背中をべっとりと貼りつかせていた。
 無理もない。
 日本円にして600万円もの金を賭けて、ブラック・ジャックをしているのだ。

 ――どうしてこんな事になったのか。

 昨日まで私は、シンガポールにいた。
 7年付き合って別れたガールフレンドと、3年ぶりの再会をするため、はるばるやってきたのだ。
 海外志向が強かった彼女が、日本で成功を夢見る私とは、いずれ違う道をいくことは付き合っていた頃から、お互い感じていた。
 彼女は「海外へ行く」と私に告げた日、同時に別れを切り出した。
 その頃、私はうだつの上がらない訪問販売員で、金持ちになれると信じて毎日300軒のドアをノックしては、打ちのめされる生活をしていた。
 彼女との別れはツラかったが、意地っ張りには、自分の決めた道を行く以外の選択肢は無かった。
 3年が経ち、私は日本一の出版社・リクルートで営業成績2年連続日本一になった。海外で活躍する彼女に、ようやく会いに行く準備ができた気がした。
 一週間の滞在を予定してシンガポールに来たが、彼女は仕事があり、2日ほどしか私と行動を供に出来ないという。
 異国で時間を持て余した私は、となりのマレーシアまで足を伸ばしたというわけだ。
 
 午後4時頃、私はクアラルンプールのオールドチャイナタウンをあてもなくうろついていた。
 時計を持っていなかった私は、道行くおばちゃん2人組に時間を尋ねた。
 「すいません、いま何時ですか?」
 「4時だよ。……おや、あんたニホン人かい?」
 「分かりますか」
 「分かるさ。丁度良かった。私の妹が今度、サイタマに交換留学で行くのさ。もし良かったら力になってやってくれないかい?
 「もちろん、いいよ。」
 「じゃあ、今から一緒に会いに行っておくれ!」

 行きずりのおばちゃん二人に誘われるまま、私はタクシーに乗り込んだ。

(つづく)

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