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日本武道館への道② 「志」なんて、ねえよ

仲間とともに意気揚々と乗り込んだ三和電気株式会社。
社長は笑顔で出迎えてくれた。
社員さんたちが集まり、まずはグループインタビューがはじまる。
宮崎社長の志、そして代々受け継がれてきた社風を聴いていた私は、社員さんたちに話を伺うのを楽しみにしていた。

違和感には、すぐに気がついた。
あれ? 何か、違う。
こんなはずじゃないのに。
聴きたい言葉が、聴けない。聴こえてこないのだ。

「なぜ、この会社に入ったのですか?」

「ただの町工場ではなく、タングステン加工のリーディングカンパニーだからです」
「職人として腕を磨くなら、伝統と革新を同時に行くこの会社しかないでしょ」
「生活の中に光を届ける、無くてはならない役割を果たす仕事にやり甲斐を感じて」

そんな言葉が聴けると(勝手に)期待、いや想定していた。

「家から近いから」
「別に理由なんか無いけど、友達がいたから」
「なんか仕事しないと食っていけないじゃん」

実際に言われたのは、こんな身も蓋もない言葉ばかり。
とどめを刺したのは、ある社員さんの

「俺たちに志なんて、ねえよ」

という一言。

これが私のハートに火をつけた。
志として自覚しているようなものは無くても、大切なもんが一個くらいあるやろ。

それを聴き込んでいくことで、分かったことがある。
この人たちにとっては「志」なんていうのは、誇らしいことではなく、こっぱずかしいことなんだ。
なるほど。そういう価値観の中で生きてきた人たちなんだ。
さらに分かったのは、自覚的な志は無くても、美意識はむしろ強く持っていること。

理由なんてゴチャゴチャ言わずに、黙って自分の仕事を完遂する。
褒めてもらおうなんて思わずに、より完成度の高い仕上げを追究する。
世の中の評価に右往左往せずに、求められている技術だけを尖らせていく。

そういう人たちなんだ。
それに気付いてからは、心が通うようになった。
そして彼らの「価値観」をより早く引き出せるメソッドも開発した。
こうして「企業のミュージックビデオ」を製作するためのインタビューができたのである。

この映像を見てほしい。
最初は爪を見ながら人の話を聴いたり、インタビュー中にスマホを見ていたりした人が、最後には「自分が大切にしていること」をイキイキと語るようになった。

三和電気株式会社 ANTHEM(アンセム)メイキングビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=DcurlPq3Bok
※本編ではなく、メイキングです。

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