米国の教員に残業代は支払われているか

日本の教員の長時間労働が問題になっています。
教員の仕事は、学校の授業を受け持つだけにとどまらず、授業準備なども含まれ、時間で何時から何時までが仕事と区切るのが難しい。どこからどこまでが残業なのかの判断も難しい。
それで残業代を支払う代わりに、給与月額の4%を「教職調整額」として支給しています。

実は、米国でも、学校の教員は「ホワイトカラー・エグゼンプション」の対象なのです。
ホワイトカラー・エグゼンプションとは何なのか。


ホワイトカラー・エグゼンプションの 日本企業への適合可能性 笹島 芳雄(日本労働研究雑誌)より引用します。

アメリカの公正労働基準法は,週 40 時間を 超えて労働させる場合には,超過労働時間(残業 時間)に対して割増率 50%以上の割増賃金の支払 義務を雇用主に課している。しかし,一定の要件 を満たす労働者に対しては,この義務の適用を除 外している。  エグゼンプションとはこの適用除外を指す。


例えば、米国の教員が、超過労働の時間外勤務として運動部活動を指導しても、超過労働時間(残業時間)に対して、割増率50%以上の割増賃金を支払う必要はありません。

私が調べた範囲では、1シーズンあたりの運動部指導にはだいたい5000ドルくらいが支払われていますが、これは労使交渉の成果であり、よりよい教員を雇用したいという学校区(教育自治体)の考えからの待遇であるといえるでしょう。十分な税収や補助金を得られない学校区では、運動部活動に対し、何らかの報酬が支払われていても、時給換算すると、最低時給を下回っているケースもあります。その教員が学校区から雇用されていて給与を得ている場合には、運動部活動指導に対する報酬が最低時給を下回っていても、違法ではありません。

また、米労働省では、学校に雇用されている教員が無償のボランティアとして運動部活動の指導をすることも認めています。

さらに、過去の裁判では、管理職や学校区は、教員の専門性と近く、正当な時間の範囲であるならば、時間外労働を割り当てることができるとしています。
しかし、どこまでが正当な時間の範囲なのかをいちいち裁判で争うのは面倒なので、労使契約のなかで、次第に部活動の指導が職務に含まれるかどうかを規定するようになりました。教員の本務である授業を本契約とし、部活動指導などを補助契約としていることがおおいようです。部活動指導の範囲を明らかにしておいてそれに対する報酬も決めて補助契約とするということです。ただし、本契約のなかに運動部指導も盛り込んで、運動部指導も込みの報酬としているケースもあります。


米国のホワイトカラー・エグゼンプションが、日本でも適用されたら、もっともっと長時間労働になるのではないかという懸念がされています。では、なぜ、アメリカではホワイトカラー・エグゼンプションでもやってこれているのかが前述した論文に書かれています。

1,企業組織構造の相違
 各職務に対しては,職務分析を実施し て,職責,具体的な職務内容,能力要件(職務遂 行に必要となる能力)等を明らかにし,それを整 理した職務記述書を作成している。

2,担当職務決定権の相違
アメリカ企業では担当職務 の決定権を各ホワイトカラーが保有している点で ある。

3,転職のしやすさ


米国では、学校の教員も1、で書かれたように職責を明らかにしている。

(どのような求人でも、誰でもできる簡単な仕事です、とは書かれていなくて、最大でどのような仕事があるかが書き込まれています)

2、で書かれているように企業内で欠員が出たときは社内公募を実施し、社内公募で充足できないときは、社外に人材を求める。それゆえに過度の負担を伴う業務は労働市場で淘汰されていく。(ちなみにこれは学校が、運動部指導者を探すときも同じやりかたをしています。まず、内部で適任者を募り、適任者がいなければ外部指導者を募っています)

こういった米国の人事管理方式や労働市場が長時間労働を抑制するように働く、と書かれています。

日本の教員は、給特法があるとはいえ、ホワイトカラー・エグゼンプションの変形のようなところもあるので、長時間労働を抑制するシステムがないまま、仕事ばかりが増えていくということになっているのではないでしょうか。

ちなみに、メジャーリーグに届かないマイナーリーガーにも、超過労働に対する最低時給の支払いが免除されています。マイナーリーガーも、早出練習したり、居残りで練習すると、長時間労働になります。球団から支払われている給与を労働時間で割ると、最低時給を下回ってしまうことがあるのですが、それでも球団側は超過労働分に対しての支払いが免除されています。

ただし、こういった働かせ方は問題視されてもいて、それが昨年からのマイナーリーグ改革につながった要因のひとつでもあります。マイナーリーグに抱える選手数を減らし、少数精鋭式によって、ひとりひとりの選手の待遇をよくし、マイナーリーガーと最低時給の批判をかわそうということです。

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