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「大国が煽る安全保障」

各地で起こる戦争を背景に日本政府やメディアは日常的に「我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさをまし・・・」 「東アジアの不安定化」という言説を繰り返し、その脅威から身を守る手段として、日米同盟強化や軍拡を当然のこととする世論を醸成している。   

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「新たな敵が現れた」 「敵は卑劣で残忍」  「世界の秩序を脅かす」──

日頃から敵視している国が少しでも不穏な動きをするとメディアを通じて、敵愾心を煽り、相手を徹底的に「悪魔化」する。


果ては人種や宗教の違いを引き合いに出して「交渉不可能」な相手と見なし、国内の福利厚生の予算を削ってでも軍備を増強し、米国から〝言い値〟で
武器を買い、戦力を認めてない憲法まで変えてしまおうとする。

平和憲法を〝改悪〟する目論見

本書は、国際NGOや国連職員として、
世界の紛争地帯で停戦調停や武装解除の実務を担ってきた著者が、「緩衝国家」としての国際的な立ち位置を持つべき日本が、米国の言説に囚われ、現在進行形の戦争へと突き進む危機をいかに解決するかについて論じている。

荒廃したガザ地区

停戦実務家としての著者の立場は一貫している。
「永久に続く戦争はない。いつか終わる。ならば、それを一日でも早く」というものだ。   対立する「正義」のどちらかに加担して、一方を否定するというものではなく、あくまでもそこに生きる無辜の人々をいかに救うか模索する。


軍需産業で儲ける米国

ところが現在、直接の紛争当事国でもなく、欧米諸国は、停戦仲介には踏み出さず、ロシアには経済制裁、ウクライナは軍事支援一辺倒、そしてイスラエルのパレスチナ人大量虐殺に対しては制裁を科すどころかこれを擁護。
著者は「国際法の理念の基盤を脅かす、今までにない脅威」と断罪する。

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日本でも平和主義を唱えてきたはずのリベラルが、ウクライナ戦争の淵源である「ドンバス内戦」を無視。イスラエルの80年続く違法な土地収奪とパレスチナ人迫害も無視。紛争が起きるそれまでの経緯を無視して一方の「正義」に肩入れする。  ハマスによるテロは決して突然起きたわけではない。


   「国際法と乖離した法の空白」

日本では憲法九条を持ちながらも軍拡が進められたが、ジェノサイド条約に批准しておらず、戦争犯罪を裁く法体系がない。   そのため関東大震災で起きた朝鮮人虐殺のような集団殺害事件が発生した時に、それを扇動したり命じた「上官責任」が問われない。

また、日本の自衛隊が海外で戦争犯罪を犯した場合にも、現在の自衛隊法には「抗命罪」、つまり上官の命令に背いた末端の自衛官を罰する法しかない。  まさに「ヤクザの親分と鉄砲玉」の関係のまま、世界屈指の軍事力を有する国になっている。

責任は末端の自衛官だけが負う

日本側が正当防衛のつもりで撃っても民間人を殺してしまうこともある。
当然、起こりうる戦争犯罪すら想定もしない「目眩がするような法の空白状態」で、隣国の脅威を叫び、敵基地攻撃能力などという戯れ言が政局化する日本の異常さである。

そのことは現在、戦争犯罪を無視してパレスチナ人を殺戮するイスラエルの「自衛権の行使」と重なると著者は指摘する。 


止まらない報復の連鎖

日本は現在、少なくとも「安全地帯」にいる。 かつて侵略戦争に国民を駆り立て、追い詰められても「一億玉砕」を叫び、東京大空襲、沖縄戦、そして広島・長崎の原爆投下を経験した日本人、そして平和憲法を持つ国だからこそ、戦争において気分感情や国家の大義に身を委ねる愚かさを自覚し、
大国が煽る「安全保障化」に囚われぬ民族融和の道を探る使命があるとしている。


表題で「十四歳から」と銘打ってるように、次世代への提言としても有益な内容が詰まっている。

※長周新聞より一部抜粋。