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数学の道に進まなかった理由 前編

久しぶりに流れた数学のニュース

2012年8月30日、京都大学数理解析研究所教授の望月新一教授が ABC予想を証明したとする論文をインターネット上に公開してから、およそ8年弱という年月が経ってようやく査読が完了したということだそうです。

8年前の今頃、この論文が世に出た時のニュースを見て、ABC予想というものを知ったのですが、それより何より、この望月さんがつくりあげた理論「宇宙際タイヒミュラー理論」というなんとも厨二病なタイトルに心を奪われたのを記憶しています。

そこから、1年に1回くらい、「そういえばあの論文はどうなったのだろう?」と気になってググることがあったのですが、ほとんど進捗やニュース記事が出てこず、「あまりに難しすぎる理論で誰も手をつけられず放置されているのではないか?」とさえ、思っていました。

そして、この外出自粛の期間に「今まで本屋さんで見かけていたけど買おうとまではしなかった本を読もう」と思い立って、つい1週間前くらい前に、この本の電子書籍版を読み始めていたところで、このニュースだったので本当に驚きましたし、少し身震いしました。単なる偶然とは思えないめぐり合わせ、、、

今週末も外出自粛ということだったので読み切りましたが、一言でいうと「数学って面白い」というところに尽きます。自分の思考がアップデートされる感覚は痺れるものがあります。理論の内容は(特に終盤は)意味不明なのですが、初心者に分かりやすくザックリした話に落とし込んであるので、自分でも概ね話の流れは理解できましたし、思考のアップデートができる感覚がありました。群理論のさわりなど非常に親切に書かれていて勉強になりました。

せっかくなので「宇宙際タイヒミュラー理論」について軽く説明すると、「宇宙」は「普通に我々が考える数学の世界全部」を指し、「際」は国際の「際」と同じ意味だそうで、そうすると「宇宙際」とは、「いくつかある「数学世界」のパラレルワールドの集合体」のようなものを指すようです。「タイヒミュラー理論」はさしあたっては「座標変換」のようものらしい。これらを組み合わせると「宇宙際タイヒミュラー理論」は「いくつかある数学の世界を行き来するための理論」ということになるようです。

早速、意味不明な世界に連れてかれる感じがたまらないですが、物理学で言うと「相対性理論が発明されて物理学の分野が拡大した」ようなもので、ハンター×ハンターでいうと「新大陸編へ突入した」という感じ、ポケモン金銀でいうと「カントー地方へリニアモーターカーに乗っていけるようになった」みたいな感じだと解釈しています。

未だに気になると、こういう数学の本を読むくらいに、「数学」の世界に惹かれる自分がいるわけですが、なぜその道に進もうとしなかったのか?というと明確な理由があります。

私は将来の夢がないまま大人になって、いつまでも自分探しをしているタイプの人間なのですが、「その道に進みたいと思ったけどやめた」と唯一言えるのが「数学の道」なのです。(その他は、そもそも選択肢にあがっていないものがほとんどだと思います)

そもそも数学に興味があった理由

今まで考えていた世界がより大きな世界のごくごく一部であるという感覚は算数や数学を勉強していくと、しばしば訪れる瞬間で、その新しい世界が見えた時のワクワク感はたまらないものがあります。

小学生の時、1つ、2つと数を数え始め、自然数(とは習いませんが)の四則演算を習います。そして、実は1よりも小さな少数や分数という世界があることを教わり、中学生になると(何となく想像していたところの)負の数を学習します。

さらに、進めていくと√2やπなど無理数を扱う必要がでてきて、ついには掛けてマイナス1になる複素数(i)までたどり着いて、数の世界はどんどん広がります。途中には、指数対数や三角関数、微積、、、とたくさん武器が増えていき、太刀打ちできる問題の幅も広がるのは一種のRPGのようで、受験脳やゲーム脳の人にとって数学は結構楽しいものです。

私は、その、どんどんやれることが広がって「レベルアップしていく感覚」や、その問題を解決するときの「アハ体験」みたいなものが好きで、数学が好きだったのだと思います。

「博士の愛した数式」との出会い

そうは言っても日々の生活は部活もあるし、その他科目の宿題もあるし、という普通の進学校の生徒なので、別に数学の世界にのめり込むこともなく、成績も「上の下~中の上」くらいでした。

国語が苦手だったこともあり、当然理系へ進むものだと思いながら、高校1年生だったか、2年生だったかの夏休みの読書感想文で選んだのは「博士の愛した数式」(著:小川洋子)でした。

この本で、オイラーの公式を知ったのですが、物語の中で、小川さんの文章が、まるで詩のように公式を説明されていて、数学の奥深さを感じていました。何の関係もないようにみえる対数の世界と円周率の世界が、見えない虚数の世界で繋がっているというのは、この世界がすごく綺麗なものだけで成立しているような感覚に陥ります。

普段読書感想文以外で本を読むようなことがない生徒でしたが、この「博士の愛した数式」を読んでから、ニュートンみたいな雑誌をパラパラめくるようになり、数学の世界の広がりにワクワクしていました。

そして、あるとき、たまたま数学の新書に手を出しました。「博士の会いした数式」の小川洋子さんと、数学者である藤原正彦さんの対談をまとめた本です。

その本で紹介されていたとある定理が、私が数学の道に進むのをやめた直接の理由になるのですが、本日はここまで。


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