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「構成」と「ディテール」の話(建築の話 その3)

ご無沙汰しておりました。簿記2級の試験勉強や何やらを言い訳に文章を書くのをさぼっていました。実際には、大上段に構えすぎたテーマに何を書こうか迷っているつもりが、noteの存在すら忘れていたというのが本音のところです。

建築の話は第3回をお届けしたいのですが、その重いタイピングの腰を上げることができたのは、先日アマン東京という高級ホテルのロビーを見てきたことがきっかけです。私自身、今はデザインや設計の仕事をやっているわけではないのですが、訳あってホテルのデザイン等を調べているところです。そこで上司が「見ておいたほうが良いよ」といって、ずっと事務所にいる私を半ば強制的に引きずり出して連れて行ってくれたのがアマンだったのですが、そのロビー空間で久しぶりに建築に感動する、という感覚を思い出しました。

建築に感動するというと、私の中では2種類あるかな、と思っていて、1つは素晴らしい使われ方をしている空間を見たとき、建築と人間の幸せな関係が見えたときです。そしてもう1つは、建築や空間の持つ緊張感を感じたとき。本日のお話は、その「緊張感」の話です。

空間を捉える「構成」

前回、前々回の話では、建築設計では「コンセプト」や「スタイル」といった思想が大事だけど、アートと違い社会的な要請や物理的な制約、人が中で過ごすという観点から「構造」や「スケール」といった要素が重要になってくる、という話をしてきました。

コンセプト等の観念的な要素と人間やモノといった即物的な要素の掛け合わせ、あるいはそのズレの扱い(処理)が、建築設計の中での設計者の腕の見せどころかな、と思うのですが、その両者の世界を行き来する際に設計者は「図面」を使います。(あえて注記しておくと2D、3D問わずです)

特に、平面図は「プラン」と呼ばれ、その名のとおり計画の肝です。3DCADやBIMなどでの3次元での設計が一般的になってきていますが、普段図面と縁のない人たちでもやはり平面図は「間取り」や「案内図」あるいは「地図」という形で日常的に目にしていますし、建築の全体像を掴むのには手っ取り早い手段だと言えます。この際にどの部屋がどの大きさ、何の隣に何があるといった空間の関係性が「構成」の話です。

私だけではないと思いますが、建築設計をやったことがある人は、平面図をみて「このプランが痺れる」みたいな表現をすることがあると思います。例えば、黄金比やシンメトリーなど、人間は根源的に気持ちが良い構成を本能的に知っています。さらに、複雑な条件をクリアして成立している図面を見ると難しいパズルの解答のような爽快感があります。

平面図以外でも、立面図や断面図、はたまた大きな敷地の場合は配置図のようなものでも、構成がこれ以外ありえない!模範解答です!みたいなものをみるとテンションが上がります。

細部を司る「ディテール」

これは前回の構造、スケールの話とも関係してくるところですが、建築はいくら図面が綺麗でも、材料や構法上の制限から思った構成のものが実現できない可能性があります。そこで重要になってくるのがディテールです。構成=空間(虚)とすると、ディテール=実という関係性です。

学生の時にはあまり意識してこなかったところですが、実際に施工予定の案件であれば、図面は物を作るための指示書となります。詳細図の中で、いかに具体的に作り方が示されているかで、その建築が設計者の意図を反映したものになるかどうか決まりますが、その詳細図の中に建物のディテールが詰まっているため、仕事を始めて詳細図を検討するようになってからこのディテールというのがすごく気になり出します。

天井と壁の出会うところ、床のタイルの貼り分け方、窓サッシのつきかた、ドアチェックやカーテンレールなどの金物など、あらゆるものが理由あって、その選択がなされている(それは大した理由でない時もありますが)のが分かってくるからですが、構成を意識した形でディテールが選択(あるいは作成)されている時に、建築に筋が通っているように思いますし、そこに心地よい緊張感を感じます。

「構成」と「ディテール」の関係性

構成を突き詰めて考えることは広い視野を持つことで、ディテールを突き詰めて考えることは細部にこだわることで、一見すると両者は真逆のように思われますが、実は同じ方向を向いている、と思います。

近代建築の巨匠であるミース・ファン・デル・ローエは「Less is More」という名言も残しています。誤解を恐れず言えば、要素が少ないほうが豊かな空間である、ということですが、これは要素が少ないほうが構成が際立って見える、というように解釈すると構成の話といえます。また、彼は「神は細部に宿る」という名言を残しています。これはディテールの話です。Less is moreの空間を成立させる神は細部に宿っている、というのは本当に奥が深い。

私が好きな建築家に谷口吉生という人がいますが、この方の建築はまさにそういった構成とディテールを突き詰めて美しい建築をつくるタイプの建築家です。冒頭の写真は京都国立博物館平成知新館という建築ですが、この佇まいに息を呑みます。

この場でその魅力を語るのは、私の語彙力的に限界なのですが、エントランスロビーの吹き抜け空間とその前の水盤、その上にかかるシンプルな庇、前面だけでも谷口吉生ワールド全開、という感じです。そのバックにある展示空間は一筆書きでも好きな順番でも巡れるような工夫がされており、階段の手すり、展示物のショーケースの照明、防火扉の納まりなど、ディテールの工夫も挙げればキリがありません。


冒頭に返って、アマン東京にも同様の感動を覚えました。大手町タワーという高層ビルの34階より上がホテルなので、建物設計というよりはインテリアデザインの領域なのかもしれません。しかし吹き抜け空間はヒューマンスケールを超えるか超えないかのギリギリのところでデザインされ、タイルの割や家具など細部に至るまで違和感なく綺麗に納まっていました。

冒頭書いたように私は現在、普段の仕事で設計や直接のものづくりをやっておりませんが、今後もデザインに対する感性、構成やディテールといった建築ならではのアンテナを磨いていきたいと思います。

ざれーご

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