変愛教室 5


何者かになりたかったが、特に何の努力も行動もせず、私は大学に進学した。


私は、恐れた。

伝え聞こえてくる「大学生」になることは、困難に思われた。

もしカラオケに誘われたらどうする。

ケータイ電話を所持せざるを得なくなったらどうする。

ひとりに慣れた私には。たまらなく億劫で、講義以外のすべてが、大学進学自体をやめようかと悩む材料になった。

しかし、私は大学に行った。

やめる行動力すらなかったからだ。

サークルなどにも入らず、アルバイトもせず、クラスの飲み会も断り、ひとり読書をしてすごした。

その日々に快適さを感じる一方で、やはり私は、皆のように社会に適合することはできないのだろうか、という不安も大きくなっていった。

四年後、大学受験のときと同様、やめる行動力がないわたしは、就職活動をした。

チェーンの焼肉店を運営している会社に就職し、包丁すら使えぬ私は、落ちこぼれ、一年で退職した。

わたしは、アルバイトや派遣労働を転々とするようになり、気づけば三十五歳になっていた。

あの日に出会った葉山さんは、私の人生に、希望を与えた。

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