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魚嶋さんに見えている景色って、どんなだろう?: 雑貨から人の視点を旅するということ

魚嶋ユウスケさんの制作する絵を、雑貨とものづくりを通じて世に広める『魚嶋🐟プロジェクト』(うおぷろ)も、発足5ヶ月。このnote「うおぷろのはじまり」シリーズでは、うおぷろが始まった経緯と運営メンバーを紹介してきました。第3回では、原画の制作をしている魚嶋さんについて、ご紹介します。

うおぷろ日記シリーズもよろしくお願いします◉)

魚嶋ユウスケさんは、ふだんは京都の障害者支援施設テンダーハウスで陶芸品の原画を担当しています。ユニークな絵を書く魚嶋さんのことを、また、魚嶋さんの視点についてもっと知りたい!となった私たち。まずは、魚嶋さんのことをよく知る魚嶋さんのお母さんに質問を送り、回答していただきました。

質問内容は、書き手である私(ミズカミ)が魚嶋さんの絵を見てアレコレ想像していることが主になっていますが、このプロジェクトに関わってくれている人たちはみんな魚嶋さんの視点に興味津々なので、他の方々にも刺さる記事になったらいいなと思っています。

あのほとばしる曲線の生まれる背景を、まだ魚嶋さんの絵のことを知らない人にも伝えられたらきっとより愉快な波紋が広がっていくだろうな、と想像するとわくわくします...! うおぷろnoteがそんなきっかけになりますように。

うおぷろメンバーと魚嶋さんの出会いはこちらから。

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●魚嶋さんとは一体だれかというと
お名前は魚嶋ユウスケさん、20代男性。2013年4月からテンダーハウスに通所しています。テンダーハウスでは陶工班の原画担当で、写真などで見た動物や人・モチーフをシンプルな線に抽出して描くのが特徴。マッキー12色入りを月に3ケース消費するくらいに多産な作家です。

魚嶋さんに「自画像を描いてくれませんか」とリクエストしてあがってきた作品がこちら。

1613451396166のコピー

6人いる...!!6人描いてある自画像は初めて見ました。

鏡にうつった自分を眺める第三の自分がいるのでしょうか...それとも合わせ鏡?...ミズカミ目線だと、左上と下段左から2人目が特に、リアル魚嶋さんらしい特徴を備えています。それにしてもきっちり色塗りをするなあ。

このうち私の気に入った一人をフィーチャーして、TwitterInstagramのロゴを作ったのでした。

うおロゴ色2のコピー


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魚嶋さんは仕事人。

魚嶋さんの作業風景はこちら。輪郭は黒マジックインキ、塗るのはマッキーというスタイル。12色入りセットのマッキーペンがバランスよく使われています。

「ちなみにペンは自腹です(笑)」 とお母さん..そうなのか...!!!...ZEBRAさ〜ん、スポンサーシップは可能ではないですか...???


...えへん、すいません昂りました。

美人画01

これは、美人画を描いているところ。

魚嶋さんには一度テンダーハウスでお会いしたのですが、集中力がすごいのなんの。私たちが過去の絵を束を見せていただいている間に書き始めた一枚が完成してしまっていました。横から眺めていると考えたり迷ったりで手が止まることはほとんどなく、線を引くのにも全く迷いがないというのは、多少絵を描く人間としては羨ましい限り...。

どうやって描くモチーフを選んでいるのかというと、コーチから干支商品やバザーなどで必要なテーマのリクエストがあったり、陶工班で写真やテーマを選んでそれを描いていたり。本人が自分でモチーフを選ぶ時もあるようですが、いつもそうだというわけではなさそうです。くまと武将の絵が多く見られるので、それらが好きなのかな、と思ってお母さんに聞いてもらいましたが、魚嶋さんの答えは「人の絵が好き」だということ。お母さんは、色に対しての反応やこだわりはあまり感じないらしく、試しに好きな色をたずねてみた結果、魚嶋さんは「赤」と答えたそうです。

テンダーハウスでのお仕事時間中は図案描きだけでなく、陶工のための土砕き・土練機作業・成形・販売準備・大掃除など多岐に渡ります。一時期、描くのがあまり進まない時もあったようですが、最近は休み時間にも描くようです。

ちなみにお母さんによると「絵は仕事として描いているので、家では全く書きません(笑)」ということ...!

これは意外でした。好きが高じて、というよりはテンダーハウスでの作業を通じて発見された才能だったんですね。

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魚嶋さんの「かわいい」の源流

「顔のあるモチーフには一律にかわいい表情が描かれていますが、魚嶋さんは実際かわいいものが好きなのでしょうか?」という私の質問にたいして魚嶋さんのお母さんの答えは、

「かわいく丸いものが多いのは、私がSNOOPYが好きで、ユウスケが小さいころから持ち物に使っていたからかもしれません。ユウスケは今でもSNOOPYが好きで、ハンカチやタオル・Tシャツ・小物などに使っています。ハッチポッチステーションも好きで、図案にも反映されていると思います。」


...そういえば似てる、かも!

スクリーンショット 2021-06-12 21.53.11

(出典:NHKアーカイブス

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魚嶋さんが、絵を仕事にするまで 

魚嶋さんはもともと学校の授業で絵を描くくらいでした。テンダーハウスに体験実習に行った時、全部のセクションを体験したところ、きれいにストールを編んだので、お母さんは織班に入ると思ったそうです。ですが、本人は「陶工班がいい」と言うので驚いたということ。どうしてかははっきり言わないそうですが、お母さんの推測によると「織班は織機がいっぱいあって、部屋が狭かったからではないか」だそうです。

スキルの有無より普段すごす環境が大事だったんですね、なるほど。その点は私も共感するところがあります。

陶工班に入ってからも、魚嶋さんが絵をしっかり描き始めたのは入所してから2年目の一泊レクリエーションのしおり作りの図案を描いてからでした。コーチも魚嶋さんが絵を描くとは思っておられなかったようでした。最初は土砕きをしていたのだそう。

こちらが魚嶋さんの記念すべき初製作・レクリエーションのしおり。

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「ペンギンかっわい...!!」となったうおぷろ発起人持木とミズカミ、さっそくこのnote記事のアイキャッチにこのペンギンちゃんたちを使いました。隊列になったペンギンたちで、マスキングテープやチロリアンテープを作りたい〜〜!!


...すいませんまた昂ってしまいました。魚嶋さんが原画担当になるまでのお話に戻ります。

お母さんの回想によると、「最初の1日はテンダーハウスの黒ペンで描いて、次の日には、自分で家にあったカラーペンを持って行きました。褒められて気分がよかったのかもしれません。それからは、コーチが写真をいくつか提示してくださったものを選んでデフォルメして描いていました。最初はマッキーやポスカ・コピックや色鉛筆など色々と持たせましたが、そのうちに輪郭は黒マジックインキで、塗るのはマッキーのスタイルが確立されました。」ということ。

魚嶋さんは、たまたまイベントのしおりを作ることになるまで、ほとんど絵を描かなかったのに、今では1日に10枚以上仕上げることもある原画担当に。

ユニークか形と面白い色合いの作品を作りづづける魚嶋さんしか知らないところからこのプロジェクトはスタートしているので、今回お母さんにお話を聞いたことで、魚嶋さんの印象が "絵の才能を持ち、それをライフワークにしているひと" から "熱血仕事人" になりました...。

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●お母さんからみた魚嶋さんの世界

最後に、「魚嶋さんにはどんな世界が見えているのだと感じますか?」と聞きました。 作品を通じて魚嶋さんの視点をのぞいてみたい、その思いが私がうおぷろに参画したきっかけだったからです。

「自閉症ですから、“人となり”というのはむずかしいところですが」と前置きをして、魚嶋さんのお母さんは「基本的には楽しいことが好きな明るい子だと思います。機嫌がいいとニコニコ笑っています。もっといいと、足を開いて体を左右に揺らします。」と教えてくれました。

そして、「思っているよりたくさんの情報に囲まれている世界にいて、その中から自分に必要なものに瞬時にフォーカスが合い、それをチョイスしているような感じはします。自閉症なので視覚の情報は普通の人より強いですし、そうなるのかもしれません。『何年何月何日に、○○して怒られた』などとよく覚えていて、しんどいだろうなと思います」とも。

緻密な視覚世界を常に知覚しているのだとしたら、魚嶋さんの絵に出てくるシンプルな線画と、気持ちいい色彩構成がより面白く見えます。自分の見ている大量の情報から魚嶋さん自身が抽出したもの、つまり魚嶋さんのセンスが私たちの前に立ち現れているってことですよね。

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●あの箸置きがなかったら、私は魚嶋さんを知らないままだった

私が普段暮らしている中では見えない景色を日常的に生きている魚嶋さん。持木さんが可愛いブローチに出会って箸置きを作ろうと思わなかったら、きっと出会うことはなかったでしょう。魚嶋作品を手にとって嫉妬心まじりに感動したり、魚嶋さんのお母さんと長いメールをやり取りすることもなかったかもしれない。

アートや雑貨という、純粋に自分の気持ちが浮き立つから手に取るようなものから、その向こうにいる人の生活や生き様を知ることができる、それって素敵なことだな。このインタビュー記事製作にあたって、その事実をまた深く実感しました。

うおぷろでは、さらに魚嶋さんの絵を素材にして染め物や張り子や刺繍といった雑貨、デジタルアニメーションを作りたいメンバーもいます。これまで知り合いでもなかった工芸作家さんたちと新しいコラボレーション作品の会議をすることも、魚嶋さんの絵がなかったら実現していなかったこと。もはや、魚嶋さんの絵の周りに生態系のようなものが出来つつあって、もはやプロジェクトそのものが有機的な生命体みたい。

私たちが魚嶋さんからインスピレーションを受けて作ったものを、魚嶋さんやお母さん、テンダーハウスのみなさんにも見てもらいたいな。そこからどういう上昇気流が渦まいていくのか、それもまた楽しみです。

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