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仮面の下

 「明るい変人」「知識が豊富で頭がいい」同期や上司、先輩が私をそのように評価してくれる。仕事は業界柄忙しいと言われているし、むしろ自分で忙しくしてる。元々人手が足りない部署だから率先して物事を覚えてく私の姿勢というのはありがたいらしい。
 対人関係もそこまで苦労はしてない。昔みたいに話しかけたら無視されることや、話しかけられた最悪、〇〇菌に移るぞ〜逃げろ〜という事はない。最後のやつに至っては小学生にいじめられていた時にやられたものだ。大人になって〇〇菌だとかいう人がいるならその人の人格を疑うレベルである。
 会社自体も全然良い。ホワイト企業である。残業もそこまでしないし、(帰らさられる、就業時間内でいかに効率よく終わらせられるかという風潮である。)年間休日も多いし、給与も一般の新卒以上に貰えてる。順風満帆な社会人生であるのには間違いないのに虚しさがある。
 公の私はその虚しさを隠して仕事をして時にはバカやって仕事で軽いミスして大袈裟に頭を抱えたり楽しそうに笑っている。だから周りの人は私の精神が蝕まれている事は露知らずだろう。
 仕事が終わって執務室を出てエレベーターホールに向かいながらあぁ、今日も生き残ってしまった。と考えているのは知らないだろう。

 死ぬにしても自分で首を吊るのも、電車に飛び込むのも、高層階から飛び降りることもできない。自分にそのような勇気が無いからだ。それならば過労死で死ねないかなと必死で仕事をしているが、風邪を引くかリンパ節が腫れてその影響で半身の痛みを堪えながら仕事をしている。

 失恋で寂しいからか家に帰って1人で泣くことが増えた。どう考えても精神衛生は良くない。でも、職務中に仮面を被っている私は周りの人から見ても心身共に健康で順風満帆な社会人生活を送っていると錯覚しているしさせている。人事部と面談があった時も「(公の私は)大丈夫です〜。」とニコニコで答えてしまった。心が痛い。しんどい、この痛みや辛さから早く解放されたい。それは私事で職務に関係がない事だから言えなかった。本当は苦しいのに辛いのにしんどいのに「助けて」の4文字も簡単なはずなのに言えない。

 家も荒れていく一方で洗濯物も畳むのが面倒で洗った山から毎朝発掘して着てそれを洗濯してと繰り返しているから洗濯物の山は崩れないまま無限ループを繰り返しているし、ご飯も自炊が面倒になったから冷凍食品やレトルトで済ます。コーヒーやエナドリのカフェインもかなり多く摂取するようになり斜向かいに座る同期に「まーた、この人は…」という冷たい眼差しで見られている。(決して女性からそんな眼差しで見られたいというドMな願望持ちではない。)
 参加しようかなと検討していた大学のゼミの集まりも欠席にした。ついでにLINEのグループも抜けたし、何人かとの個人チャットもブロックした。本格的に人とと深く関わるのが面倒になった。

 関係のない人を巻き込むのは良くない。近しい人にも死にたいと言ってその負のエネルギーでその人の人生を変えたくない。この憂鬱な状態が失恋によるもので一過性のものであるならば、時間若しくは新しい人との交際によって解決されるのは間違いないが、一過性のものでない場合はその相手も苦しんでしまう。某大学機関が学生向けに提示した月例の便りにこのように記されている。「恋愛関係は互いの感情に大きな影響を与えます。 片方がうつ状態の場合,相手にうつが「伝染」することがあります。」と。私の状態が一過性のものでなく継続性のあるものであったら次のパートナーにも被害が及ぶ。つまり、真っ黒に汚れたこの手で別の人を触って自分が白くなってその人が黒くなってしまったら悪循環である。

 悲しみや苦しみの思いを仮面を被って隠す。誰にもこの思いを悟られないように。誰も傷つけないように。1人で背負い込もう。死ぬ勇気がない私は外的要因に期待をするしかない。いっそ、本当に生きたいという人に自分の寿命をあげられるようなシステムがあれば双方win-winなのになとスパークリングワインを1人で殆ど開けて丑三時まで飲んで考えていたがそのあとの記憶はない。寝過ぎか二日酔いで頭が痛いと思いながら起きたら夕方であった。いっそこのままずっと眠れていればこの心に空いた穴の痛みを忘れることができたのにと思う。ここまで寂しくなるのならば恋愛をしないほうがいい。今日もう一回眠ればまた忙しい日々が始まる。そうすれば無気力な私とはしばらくの間おさらばだ。また、完璧な仮面を被ろうではないか。

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