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スタートアップの1ページサマリーのお手本

スタートアップが投資家やメディアにビジネスを売り込むとき、1ページで簡単にビジネスのエッセンスを説明する文章を作ることがあるが、そのお手本となるべき秀逸なものを見つけたので紹介したい。

PagerDutyは今週NYSEにIPOを果たした2009年設立の会社。上場で初値から60%株価が跳ね上がり、3000億円超の時価総額となった。2010年にY Combinatorを卒業したのだが、その当時YC創業者のPaul Grahamは一つ一つのスタートアップの紹介文を書いてTechCrunchにメールを出していたという。その彼がPagerDutyのIPOのお祝いツイートをしていたのだが、そこに彼が当時TechCrunchに送った紹介メールが添付されている。

以下この紹介文を解析してみる。

New startup launching today: PagerDuty
http://pagerduty.com founders@pagerduty.com
They do alerts for servers: they tell you when bad things are happening on your servers.

“They do alerts for servers” という一言で何をする会社なのかをまず説明し、その後に簡単な一文を入れることでその一言をよりクリアにしている。これは投資家やメディアの記者など一日に何十もの同様な売り込みの文章を読む人たちにとって、この掴みで興味を持てるかどうかでその後を読みたいと思うかどうかが変わってくる。これ以上おそらく短くはできないであろう最小限の単語数でエッセンスを詰め込んでいる。

This is a huge market. For every company that has anything online that they care about, there is someone in charge of making sure the servers are working. And as apps migrate off the desktop and onto the web, this is starting to include all software.

何をする会社なのかがわかったら、次に気になるのはそのビジネスがどのくらいの市場規模があるのかという点。“This is a huge market.”の一言で次の段落を始めることで、ここでまた読む側を惹きつけている。続く文ではなぜその市場規模が巨大なのか、ソフトウェアがデスクトップからウェブに移行しているという市場トレンドに言及することでこのサービスが成長市場で必要とされるものであることをクリアに説明する。スタートアップのピッチで必ず投資家が質問する「なぜ今なのか?」もこれで説明される。

Monitoring what’s happening on a web server is already a solved problem. There are open source programs everyone uses (the most pupular is Nagios). The part that isn’t solved yet is getting the information that something is wrong to the people who will fix it.

既存のソルーションに言及することで、何がこれまでできていて、何ができていないのか、その中でこのスタートアップが解決しようとしている課題が具体的にどの部分なのかをクリアにしている。

That’s what PagerDuty does. They handle the interface between detecting trouble and the social organizations people set up to deal with it. You can set up a bunch of people who are to be notified in case of trouble, and assign them duty rotations. If you’re on duty and can’t respond (or can’t solve the problem) you can escalate it to someone else.

ここで具体的にその課題をどのように解決するのかを解説する。わずか3つのセンテンスであるが、これで基本的な機能が把握できる。

Everything works on mobile devices, by all possible media. As well as sending you email or SMS notifications, they can make a voice call and have a speech synthesizer read a voice notification to you. And you can program the system with escalating series of alerts: e.g. SMS initially, and then phone call 2 minutes later if there has been no response.

さらに次の文でより詳細な、そしてユニークな機能の部分を解説し、このスタートアップが投資検討、あるいは記事として取り上げるに足りうるだけのものであることを示唆する。

Doesn’t sound very sexy, but every technology co needs this — so much so that these guys made it to ramen profitability while still in their beta.

結びの文では、”Doesn’t sound very sexy” と一部の読者が感じるであろう印象を認めつつ、このスタートアップのソルーションが全てのテクノロジーの会社が必要とするものであると言及し、その証としてまだベータ版であるにもかかわらず “ramen profitability” になるほどニーズがあるものだったということを強調して締めくくっている。(ちなみに ramen profitability というのは、創業者たちがカップラーメンで食っていくという質素な生活ができるレベルで黒字化しているという意味。)
この一文があることで、グラフや数字など通常ピッチ資料についてくるような補足がなくても、ある程度のトラクションのあるスタートアップであることがわかる。

この1ページの文章を読むだけで、この会社が
・どんな市場で
・どんな課題を
・どのように解決するのか
ということが手に取るようにわかるだけでなく、「もっと知りたい」と思わせるだけのフックも随所にちりばめられている。

驚くべきはこれを書いたPaul Grahamがこのスタートアップの人間ではなかったということだ。さすがに彼は文筆家だけあって、こうした文章を各バッチごとに数十社分書くのも苦ではなかったのかもしれないが、逆に彼が外部の人間であったからこそ独りよがりではない、客観的にわかりやすい文章を書くことが出来たのかもしれない。

もしあなたがスタートアップのファウンダー、あるいは大企業で新規事業を立ち上げようとしている人であるのなら、ぜひこうした1ページのサマリーを書いてみることをお勧めする。そしてそれをまわりの人、特にあなたのスタートアップ、新規事業のことを何も知らない人に読んでもらってフィードバックをもらおう。何を理解してもらえたか、何がわからなかったか、もっと知りたいと思えたか?こうして完成させた1ページの文章はきっといろいろな場面で役に立つはずだ。

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