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キメラアントの弱点「王と女王の縦割り組織」

『HUNTER×HUNTER』のキメラアントといえば、王や護衛軍の圧倒的な強さ、そして「王が倒されれば終わり」という組織的な弱さがよく語られます。もちろんそれは誤りではないのですが、キメラアントの設定をよく見ると、そうした弱さを生んでしまう構造的な弱点が見えてきます。

キメラアント編の初期に、キメラアントの社会構造が語られています。王の誕生前は女王を頂点とする社会なのですが、王の誕生後は、女王を頂点とする師団長たち、王を頂点とする護衛隊に分裂します。

194話「VSハギャ隊①」 王の誕生前
194話「VSハギャ隊①」 王の誕生後

ここで重要なのは

  • 女王・師団長は新たな王を産むため、食事と出産を繰り返す

  • 王・護衛隊は新たな女王を作るため、様々な生物と交配する

という役割分担ができていることです。これは、二つの組織が別の目的を持っており、相互に干渉しあわないという弱点にもなっています。実際、メルエム誕生時に女王蟻は重傷を負ってしまい、コルトがネフェルピトーに女王の治療を依頼するのですが、ピトーは「彼女は護衛隊には関係ない」と治療を断りました。その後、人間による治療もむなしく女王は死にました。

「王を守る」という護衛隊のミッションを考えればピトーの判断は正しいのですが、キメラアント全体で見ると誤りでしょう。女王の死により、

  • 新たな王が産まれなくなり、メルエムが死ぬとキメラアントの統率者がいなくなった(「王が倒されれば終わり」という弱点の発生)

  • 師団長たちは自分が王になることを目指して独立していった(女王組織の崩壊)

  • 女王を助けるためにコルトが人間側に降伏するなど、キメラアント側から裏切り者が発生した

と、キメラアント社会崩壊のリスクがいくつも生まれてしまったからです。ピトーの判断は護衛隊にとっての部分最適であり、キメラアントにとっての全体最適ではなかったといえます。

実はコルトも部分最適のミスを犯しています。彼は人間に女王の治療を依頼したり、女王の死後はカイトの生まれ変わりの世話をしていましたが、本来ここで必要なのはメルエムに頼みこんで他の生物と交配してもらい、新たな女王を作ることであったと思います。女王を作らないままメルエムが死ねば、キメラアント社会は終わりだからです。そうしなったのは、師団長のミッションはあくまで「既存の女王を守る」ことであり、「新たな女王を作る」ことではないからでしょう。

No.297「最後」

キメラアントとは王を頂点とする種だとメルエムが強調していましたが、こうして見ると、実は王と女王の縦割り組織だと言えます。「王と護衛軍は新たな女王を作る」「女王と師団長は新たな王を作る」と役割分担がきっちりできていますが、逆にキメラアント全体が危機に陥った際、役割を越境して危機に対応する者が誰もいないというリスクを抱えています。人間においても、同じような会社は多いのではないでしょうか。

これに対し、キメラアントと戦ったハンター側は「キメラアントを討伐する」という目的を(ナックルを除いて)共有できており、組織としてはほぼ一枚岩でした。

  • 元々は王が誕生する前に女王を討伐する作戦であったが、王が予定より早く産まれたため、王と護衛隊を分断し、ネテロが王を倒す作戦に切り替えた

  • キルアは元々ピトーと戦う役割であったが、ナックル・シュートがモントゥトゥユピーに苦戦していたため途中で加勢に入った

  • イカルゴは元々パームを救出する役割であったが、途中でブロヴーダに遭遇し、彼と戦った

  • モラウは元々シャウアプフと戦う役割であったが、途中でナックルに加勢してユピーと戦った

など、状況がめまぐるしく変化しても「キメラアントを討伐する」という目的の下、各々が考え、役割を越境して動いていました。こういったハンター側の組織としての強さが人間の勝利に大きく貢献したのは間違いないでしょう。

※ナックルについてはキメラアントを討伐する気が無かったので、そもそも討伐隊にアサインされたのが誤りであったと考えています。詳しくは以下の記事をご覧ください。

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