茨城県人を見れば、日本人がわかる1

茨城県水戸市大工町の居酒屋にて
 
 ボクは友人Nと他の二人の友人と飲んでいた。
 
 するとNが突然「俺この間スーパーで万引きしたんだ。山崎は万引きしたことあっか?」と言った。ボクは驚いて「ないよ!」と答えたが、30歳も過ぎた男が万引きなどするんだろうか。
 「なんで万引きなんかしたんだ?万引きは窃盗罪の刑法犯だぞ。スーパーだって困るじゃないか。安い利益で売ってるのにそれをただで持ってきちゃうなんて」と言ったが、Nは「度胸がねえんだな」とにやにや笑っている。なに!?万引きすることが度胸のあることなのか。あきれた。
 
 「じゃあ万引きしたおまえは度胸があるってことか?度胸があるならもっと大きいことやったらどうなんだ。殺人とか」ボクは腹がたって言ってやった。するとNはうつむいて「みんなやってんのか?」と答えた。ボクは「ああ、度胸のある人はみんなやってるよ。    なんだおまえできないのか?」と言うとNはうなだれてだまって考え込んでいる。へえ~おもしろい。そんなことも判断できないのか。からかってやろう。
 Nの肩をたたいて「だいじょうぶだ。おまえはだれを殺していいかわからないだけなんだから、おれが殺す人間を決めてやる。そうすればおまえは人殺しができる」と言うと「できんのかぁ」と希望を持ったようだ。
 「ああできるよ。おれが名指しで誰を殺すか決めてやる。ただし大事なことは、警察に捕まってもおれの名前出しちゃだめだぞ。おまえは優秀なんだからできるだろう」と言うと「わかった」とうなずいた。
 
 これでボクの殺人マシーンができあがったと思っていたら、カウンター向こうのマスターが恐い顔をして「もうそのぐらいにしとけ」と言っている。「なんだよ。せっかくおれの殺人マシーンができたのに」と言うとマスターは「なにが殺人マシーンだ。だいたい殺したい奴がいるのか?」と聞く。ボクは考えて「今のところ殺したい奴はいないね」というとマスターは笑って「ほら。じゃあ殺人マシーンなんていらないじゃないか。しかしなんなんだそいつは」「なんなんだろうねぇ」その話はそれで終わった。
 
 

 
いつもの居酒屋で、Nを隣に4人でカウンターで飲んでいた。
 
Nが突然「ナイフ持ってっか?…おれ持ってんだ」と言う。ボクは本当は家にサバイバルナイフを持っている、キャンプ用品だ。だけど「持ってないよ。危ないもん」と言った。
Nは「おんなっ子っちゃ弱いんだな」とも言った。「そうか、最近の女の子は強いけどな」といってやったが。
Nは「職場でおんなっ子らにナイフ見せたら、おっかながってんだ」「そりゃナイフ見せられたら誰でもこわがるだろう」ふーん、女の子相手にナイフを出したのか。
「それでその時他の男の人たちはどうした?」と聞くと取り押さえられて、ナイフを取り上げられたそうだ。当然だろうな。
「それでそれをどう思った?」と聞くと「女の前でいいとこ見せたかんだっぺよ」と言う。ふーん。だいたいが刃渡り55mm以上の刃物を持ってると銃刀法違反で警察に捕まるからな。普通持ち歩かないもんだけどそれを知らないようだ。
 弱いから自分を強そうに見せるためにナイフをちらつかせたということか。
 
 ある日の居酒屋でNは俺にナイフを見せてきた。また買ったのか。ナイフを揺らしてにやにや笑っているのが不気味だった。
 ボクは立ち上がり、後ろの椅子を蹴ってスペースを作った。Nがナイフを振り回してかかっていたら逃げるために。しかしNはかかってこなかった。ボクは「おれの前にナイフなんか出すんじゃねえよ」と言って、Nのほっぺたを叩いた。ほんの指先でペチンという程度だ。それでもNはそれでぐったりと下を向いてしまった。ボクはゆっくりとナイフを持つ手の手首を握った。そしてマスターに「預かってほしい物があるんだけど」と言った。マスターは最初やさしい顔で「預かってほしい物ってなに?カウンターの中に入れてあげるよ」と言っていた。ボクは「預かってほしい物ってこれなんだけど」とナイフを握ったNの手首持ち上げた。抵抗はしなかった。
 マスターの顔が急に険しくなった。「なんだそれは。うちじゃそんな物預かれないぞ」という。「そうか。そうだよねえ」マスターは怒って「しかしなんなんだそいつは…おまえがしっかりしないからだ」と言われてしまった。「ええー、俺がだめなの?」と下をうつ向いて考えた。ナイフを出すようなまねをする前にこいつを止められただろうか。むずかしいよな、マスターはボクが考えてる姿を見て、表情がやわらかくなって「よしよしわかった。ナイフを預かってやるよ。出しな」と言ってくれた。
ボクはゆっくりとナイフの刃のほうを持って取り上げ、マスターに柄のほうを差し出した。
「たしか刃物の渡し方ってこうだよね」「そうだ」ナイフはカウンターの中の棚のグラスの中に収められた。これでこの話は終わり。
 
 
 弱いなら弱いなりに生きていくしかない。というかそう生きていいはずだ。周りのおとなはそれを助けることはあってもいじめたりしないはずだ。
 それを自分が強そうに見えるように悪いことをやる人がいる。それはもともと弱い人が付け刃ですることなので、すぐ化けの皮ははがれる。

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