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物流危機に関するレポートを書いたら反響が凄かった話

Zaikology Newsはフルカイテン株式会社の広報担当、南が執筆、運営しているわけですが、フルカイテン広報の仕事として、ファクトに基づくレポートを作成しています。「ファクト」とは、官公庁が公表する様々な統計データをはじめとした客観的事実を指します。統計を調べると色々な発見がありますので、それをレポートにまとめて公表しているのです。本年7月に始め、およそ週1回のペースを保っています。このうち、9月3日に公開した「トラック物流は高齢化・低待遇による人手不足でますます運賃上昇へ…ECの利益体質改善は必須」というレポートは、物流専門ニュースサイトに転載されたこともあり、これまでに公表した5本のうちで一番ダウンロードされました。このレポートについて取り上げたいと思います。(南昇平)

「送料無料」の背後にあること

当レポートの要約は次のとおりです。

・宅配便の年間取扱個数は、ここ15年で14億個増え2018年度には43億個を超えた。通販売上高の増加の推移から今後も取扱個数は増加が続く見通し
・2019年までの20年間でトラックの輸送効率は約22%低下。運送会社のコスト上昇や消費税率引き上げに伴い、運賃は宅配便で34%、一般貨物で4.2%上昇した
・ドライバーの高齢化が深刻。賃金も全産業平均よりおよそ2割低い
・コロナ危機で運賃判断指数はマイナス100超も。足もとでは一部に値下げ圧力
・必ず到来するドライバー不足の解決には労働生産性の向上が欠かせない。そのためには運賃引き上げあるいはサービス水準引き下げが必要
・小売企業、特にECはさらなる運賃値上げを念頭に、利益体質の強化へビジネスモデル変革が求められる

トラック物流は危機に直面しています。ドライバーの人手不足と他産業よりも待遇が低いことが原因です。新型コロナウイルス危機の後、運ばれるのを待つ荷物があるのにドライバーが足りないがために運べなくなる日が必ずやってきます。

にもかかわらず、トラックの輸送効率は年々下がっています。全運送事業者がもつ輸送能力と、実際に運んだ荷物のトン数と輸送距離とを比較すると、輸送能力は増えているのに実績トンキロは減っているためです。

また、ひと口に「トラック物流」と言っても、宅配と一般貨物とでは状況がかなり異なることが、統計を調べて分かりました。

つまり、小口の荷物を高頻度で運ぶケースが増え、空気を運んでいる割合が大きくなったということです。

また、宅配の方は大手3社による寡占状態なので、運賃(料金)は近年かなり上がっています。それに対し一般貨物はドライバー不足とはいえ運送会社に零細企業が多いこともあり、運賃は消費税率引き上げ分しか上昇していません。

これでは、ドライバーの待遇改善の原資を確保するのは難しいでしょう。詳しくはレポートの中で根拠とともに解説しています。

高齢化の先に待ち受けるのは…

運送業界は労働者の平均年齢が他産業よりも高いという課題もあります。それは、若者に魅力的な産業ではないという証しでもあります。通常なら不況下では人手を集めやすくなりますが、コロナ禍の下ではそれもままなりません。

しかも本年4~6月はコロナ禍によって経済活動が停滞したことで、企業間物流などの一般貨物は運賃値下げ圧力が強くなっています。一方で、通販が増加しているため個人向け宅配は好調ですが、こちらも運賃(料金)は上昇がいったん止まりました。

宅配を支えているのは言うまでもなく企業間物流です。ドライバーが高齢化して若者のなり手が少なく、運賃の価格決定権もない業界に、経済全体が支えられているという歪さ。

運賃が野放図に上がれば良いと言いたいのではなく、ドライバーに適正な給料を払えるような適正な運賃水準はどれくらいなのか、消費者、荷主を含め全ての関係者がもっと真剣に考える必要があるのではないでしょうか。