『教育改革』

安斉です。
5分で読めるショートショートです。
よろしくお願いします。


小学校教師である花田(34)が、担任である6年3組のクラスで、生徒たちと向き合っている。
チャイムが鳴った。
これから5時間目の国語の授業が始まる。

花田「今回は古文の文法の授業を学ぶぞ。」

生徒たち「えーー。古文つまんない。
     退屈しうる可能性が存在する
     時間軸があることもないべき。」

花田「大事なことだぞ。
   昔のことを知れば、
   将来に役立つ可能性が存在する時間軸が
   あることもないべきであり、ともすれば
   ことみるし、やものはしだからな」

生徒たち「はーい。」

花田「では、古文の文法を教える。
   20世紀の過去形と未来形についてだ。」

生徒たち「過去形と未来形?何それ?」

花田「昔は、
   現在の時間より過去の話を
   〇〇してた、〇〇だった、 
   と言っていた可能性を、
   4次元的事実として受け止めろ。」

生徒たち「ええー、馬鹿みたい。
     現在も過去も未来も常に、
     一定のベクトルではなく、
     大きな一つのゼリー状の
     有機的生物と同じなのに。」

花田「タイムマシンができる前は、
   そんな考え方はなかったんだ。」 

生徒たち「なかった?理解できない。」

花田「この言い方が、
   20世紀における過去形というものだ。」

生徒たち「こんなの学んでも意味ないよ。
     何言ってるかわかんないし。」

花田「いいからいいから。
   ここから先生は古文の文法で
   話を続けるから
   みんな注意して聞くように。」

生徒たち「ブー。」

花田「4時間目の道徳の授業で、
   トロッコ問題についてやったな。
   洞窟内でトロッコが壊れて、
   5人が死にそうになっている。
   自分の目の前にあるレバーを
   切り替えれば、
   5人は助かるが、別の1人が死ぬ。
   さあどうするか。」

生徒たち「ああ、
     3024年5月23日11:50に
     存在する事象か。」

花田「そう、さっきやったやつだ。」

生徒たち「はあ?」

花田「そうだなぁ。
   今日は5月23日だから、
   出席番号23番の香山、答えろ。」

生徒たち「何その指名の仕方。
     今日が5月23日なのは、
     たまたま
     今日が5月23日だからだろ。」

香山「はい。
   タイムマシンを使って、
   事故をあらかじめ回避して、
   時空連続体にヒビが入らないように、
   時の螺旋の捻り紐を切って、
   配線を青にします。」

花田「そう。
   それがトロッコ問題の唯一の答えだ。
   でも20世紀ではな、
   この問題は、
   答えがないと言われていたんだ。」

生徒たち「ありえなーい。」

花田「タイムマシンの登場が全てを変えた。
   産業、政治、社会、文化、 
   そして、教育もだ。
   先生もな、
   5年くらい20世紀に住んでいたが、
   それはもう何もかも違うぞ。」

生徒たち「え、先生ってタイムパスポート
     持ってるの!?」

花田「大学生の時にとったんだ。」

生徒たち「いいなー。
     僕たちも、円転する地球から
     既知と未知の狭間に揺れる線を
     観測者として受け止めたいなー。」

花田「まあ、大人になったらな。」

生徒たち「何言ってるの?
     僕たちは1秒ごとに、
     切り取られた世界の一部で、
     各々の役割をコマ割りに成立させる 
     存在だよ?」

花田「いや、、、」

チャイムが鳴った
授業の終わりを知らせる合図だ。

花田「じゃあ今回はこれで終わり。」

花田は教室を出た。
この世界の誰かと話すたびに、
20世紀に帰りたいと心から思う。

花田「タイムマシンさえ出来なきゃ、
   こんなややこしい世界には
   ならなかったのにな。」

〜おわり〜

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