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人の形のブーケ【逆噴射小説大賞2022応募作品】

「落ちていたのをひろってきちまったのさ」
そして私はあらためて、横たえた生物の様子を見つめる。
身長140cmほど。人の少女によく似た生物は、ソファの上で動かない。
手足の指は四本ずつ。指先から中心部に昇っていくにつれ、薄緑から藤色にグラデーションする肌色。胴はケイトウの花束、あるいは群生する珊瑚礁のようなビラビラのドレスが生い茂る。

こんな人気のない田舎には、どこからか人ではないものが紛れ込む。
珍しくもない話だが、まずはしかるべき所(警察、あるいは神社仏閣、もしくは秘密機関)に通報しなければいけなかった。

「この子を匿ってやらないか」
信じがたいことを言い出すので、私は声の主をにらみ返した。
「だってかわいそうじゃないか。こんな土砂降りの日にひとりで草むらに倒れてた。これがもし帰る家の無い子だとしたら、寂しい思いをしているならば、そこにいた大人が守ってやるべきだ。昔からそう決まっている」

さっき、やったことは誘拐のようなものだろう。

「すみません、誰と話をしているのですか」
か細い声があった。彼女(便宜上そう呼ぶ)が気まずそうに、おずおずと身体を起こす。彼女がこちらの母国語をなめらかに話すため、私も先入観を裏切られやや動揺した。

「おれは……」
私は指差す。私と彼女の虚像が、壁に立てかけられた大きな姿見に映っていた。

「おれはね、もうずっと一人で暮らしている。でも向いていなかったらしくてね、独り言が異様に多いんだ。外で濡れているのを見かねて入れちまったけども、嫌だったら出て行っていいよ」

つまり私は、正気を失った(あるいは失ったふりをしなければ寂しさに耐えられなかった)気の毒な男だった。そんな奴に、一時でも拾われてしまった彼女も気の毒と言えば気の毒だった。

「人ではないのですか?」
彼女が不意に訊ねた。
「わたしの仲間なのですか」
人にしては大きすぎる瞳が、なぜか淡い期待を抱いているのだとわかった。

【続く】


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