ヨナス・カウフマン Jonus Kaufmann インタビュー BBC Take Me to the Opera

Take Me to the Opera, Series 2:3 Kaufmann Unveiled を観た。

オペラを愛してやまないBBCのジャーナリスト Zeinab Badawi 氏が司会を務めるシリーズ番組だ。

毎回、世界的なトップスターを取材したり、舞台美術などの裏方にスポットライトを当てるなど、見ていて本当に楽しい気分にさせられる。今回は、世界的な人気を誇るテノール歌手のヨナス・カウフマン Jonus Kaufmann を特集した回である。

カウフマンは、ミュンヘン出身のドイツ人。地元、バイエルン国立歌劇場で『蝶々夫人』*Madame Butterfly* を観て感動し、その日のうちに「自分はオペラ歌手になる」と決意したという。

よく「天は二物を与えず」というが、カウフマンのような人を見ていると、実際は神様は不公平だと思う。容姿、声、歌唱力、名声を兼ね備えたスター。もちろん、自分のような凡人が、才能に恵まれた努力の人と比較しようというのが、そもそもの間違いなのではあるが。

ミュンヘン音楽大学に入学したものの、最初についた先生の指導する発声法が自分に合わず、幸運にも次には別のいい先生と巡り会えたなど、色々な逸話が彼自身から語られた。

また、彼が次世代のスターテノールとして、世界中の歌劇場から出演を依頼されるようになったきっかけが、2006年メトロポリタン歌劇場で、ソプラノ、アンジェラ・ゲオルギウ Angela Gheorgiu と共演した『椿姫』*La Traviata* での、アルフレード役だったというのは少し意外だった。彫りの深い顔立ちに力強い太い声というイメージが、アルフレードとはあまり結び付かなかったからである。

果たしてその記念すべき公演の様子はどうだったのか、残念ながら、MET on demand には映像はなかった。パッケージも発売はされていないようなので、録画映像は存在しないのであろう。しかし、MET on demand で録音は聴くことができる。いい時代である。

番組に戻ると、他にも、言葉の端々から、合理的に考え、地道に努力を重ねる彼の人柄、考え方がよく伝わるコメントがあって、なるほどと感心することしきり。これもひとえに、Badawi 氏のオペラ愛とジャーナリストとしての聞き方のうまさだと思うが、一つ、ハッとさせられる発言もあった。

「成功の秘訣は?」と問われ、カウフマンはこう答える。

Easy answer to that question what the secret of my success is there are not so many. I would love to have more competition and especially the number of tenors are going down.

日本語字幕では、「競争相手となるテノール歌手が減ってきていますからね」となっていた。多少は謙遜も含まれるのか、オペラ歌手を目指す人口そのものが減っているから才能が出てこないということなのか、見方を変えれば、優れた歌手と共演、あるいは競演したいという強い意欲の表れであろうか。自身が常に上を目指すことだけでなく、オペラ界の今後も考えている広い視野の表れだと思うが、もう少し突っ込んでみたいポイントでもある。

そしてこの後はこう続く。

But, I mean, stability is one of the reasons.

なるほど、極めて冷静だ。

バイエルン国立歌劇場のセルジュ・ドルニー Serge Dorny 総裁、カウフマンの伝記作家の トマス・ボイト Thomas Voight にも取材している。比較的短い番組だが、今後も引き続き楽しみな良質なシリーズである。

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