タイトル

(仮ver)【逆噴射小説大賞2019応募用】メキサスシティのシルバーコップ

 これに応募したものです。

 おれは医者が好きだ。医者に行って身体を見せれば、すぐにおれは健康になれる。なぜなら奴らは人の身体のことを誰よりもよくわかっているからだ。どこの器官がどういう理屈で動くのか。何が重要なのか。どうすれば死んでしまうのか。たいしたやつらだ。

 だからこいつも、この医者も自分があとどれぐらいで死ぬのかはわかっているのだろう。

 いや? それとも小児科医だとそうでもないのか? そうでもないのかもしれない。こいつは肺があるはずの位置におれの銃でデカい穴を開けられて、血を垂れ流しているっていうのに、いま必死な顔でどうにか息をしようとしているのだ。少し観察して考えてみてから、やっぱりそれは無理だよなあ、とおれは思った。

 おれは暗い部屋の真ん中で、死につつある太った小児科医のことを見下ろしていた。割れた窓からは夜景と夜風。カーテンがはためいていた。自分より弱いものをいたぶるとは、こういう気持ちなのだろうか。流れる血を見ながら、この男の行いを理解してみようとしたが、どうも届きそうになかった。

 男の目から光が消えようとしている。おれはしゃがみ、穢れた小児科医の顔を両手で包むと、それをじっと見つめた。

 おれは自分が死ぬときには、誰かに見守っていてほしいと思っていたからだ。『自分がされて嬉しいことを、人にはしよう』。その言葉が、おれの脳にはしっかりと刻み込まれていた。

 だから、男の顔が、近づいてくるおれの顔を見て、余計に恐怖に歪んでいって、最後にはひどい泣き顔になってしまったのには、困ってしまった。

 そして男はその顔のまま死んだ。おれはなかなかの悲しみを覚えたが、しかしどうしようもなかった。

「そのとおり。どうしようもないことです」

 がそう囁き、同時に脳内を抗不安薬が巡る。ため息をついた。いつかはこのソフトも取り除かなくては。バレれば警部補昇進どころではないだろう。そう考えただけでまた薬が放出された。

【続く】

 以上800文字でまとめたものですが、今後書かれるものとは設定に齟齬が出る可能性がありますので、とりあえずタイトルに(仮ver)と追記しました。(2020/01/26)

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