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ビートルズ風雲録(17) ハンブルクへ

1960年5月末、1週間の国内ツアーから戻ったシルバー・ビートルズでしたが、お金も仕事もなく。6月、7月は、マネージャー、アラン・ウィリアムズの手配する小さなライブハウスでの演奏をこなします。しかし、8月はハンブルク行きの予定が待っているのです。


ドラマーを探せ

アラン・ウィリアムズから8月のハンブルク行きを伝えられていたシルバー・ビートルズ。二つ返事で承諾しましたが、出発までにドラマーを手配しなければいけません。それが契約の条件です。
トミー・ムーアには辞められてしまいました。ギャラが少なすぎるというのが理由でした。瓶詰工場での夜勤のほうがマシだというのです。ノーマン・チャップマンというドラマーもほんの一時参加しましたが、やはり長続きせず。
仕方なくポールがドラムを担当することもありました。このころからけっこう上手だったようですね。ジョージがそう証言しています。
しかし、時間がありません。

ピート・ベスト

そんなとき、8月6日、シルバー・ビートルズの面々はモナ・ベストの経営するカスバ・コーヒー・クラブに出かけます。そこでブラックジャックスというグループの演奏を目にします。
そのグループではモナの息子、ピート・ベストが真新しいドラムセットを叩いていました。
いました。いました。ドラムを所有しているドラマーです。灯台もと暗し。
聞いたところ、都合の良いことにブラックジャックスはまもなく解散するとか。
もう、ハンブルクに行くにはピート・ベストを仲間に引き入れるしかありません。ピートも前向きなようです。
「ハンブルクに行って一緒に稼ごう! 次の金曜日にオーディションを開催するんだ。場所は『ブルー・エンジェル』。来てくれるかい?」
8月12日、アラン・ウィリアムズが経営するクラブ、ブルー・エンジェルでシルバー・ビートルズのメンバーとしてハンブルクに行くドラマーのオーディションが開催されました。参加したのはピート・ベスト、ただ一人。おいおい。もちろん合格です。
そして8月16日、メンバーはドイツに向けて出発します。

アラン・ウィリアムズの思惑

さて、シルバー・ビートルズのハンブルク行きですが、降って湧いたように話が転がり込んできたわけではありません。
それは、リバプールのロック・バンドのドイツへの派遣事業ともいえる新ビジネスの一環でした。
マネージャー、アラン・ウィリアムズの先見の明とも言えます。
そもそもは、彼の経営するクラブ「ジャカランタ」のレギュラー・バンド「ロイアル・カリビアン・スチール・バンド」がなんの断りもなくステージをキャンセル、行方をくらましたと思っていたところ、「ハンブルクで愉快にやっているぜ! 絶対、おすすめ!」というのんきな便りが寄せられたことから始まります。
ハンブルク? そんなに景気がよいのか? ハンブルクは金になるのか?
普通ならレギュラー・ステージをキャンセルした彼らに怒り狂うところなのでしょうが、アラン・ウィリアムズは、そんなことよりハンブルクに強い興味を持ったようです。
1960年1月末、早速ハンブルクを訪れ、マーケティング調査の開始です。さすが天才興行師です。
そこでアラン・ウィリアムズはカイザー・ケラーというクラブを訪れます。
景気はよさそうだがライブ演出がまだまだだな。リバプールのバンドを派遣すれば、きっと評判になる!
そんなことを考えるアラン・ウィリアムズ。クラブを経営するブルーノ・コシュミダーという人物と知り合いになります。リバプールには、いいバンドがたくさんいるんだ。うちの店もそれで成功している。絶対評判になるぞ! そんな話をしたのでしょう。
帰国後の3月、リバプール・エンパイア劇場で開催された、アメリカのロックンローラー、エディ・コクランとジーン・ヴィンセントのコンサートを鑑賞し、大会場でのロックコンサートの可能性に気づくアラン・ウィリアムズですが、その前にすでに、ライブハウスでのビジネスの可能性にも気づいていました。
そのブルーノ・コシュミダーから、後日、バンド派遣の要請が来たのです。
コシュミダーはロンドンを訪れ、イギリスのロックバンドの勢いを改めて認識しました。そして、まったく偶然に、おそらく、この出会いがあってこそビートルズが生まれたと言ってもよい奇跡的な偶然で、この時、アラン・ウィリアムズとも再会したのです。
ブルーノ・コシュミダーはロンドンでスカウトしたバンドをカイザー・ケラーで演奏させ、その出来にかなり満足していました。
彼が経営する別の店、インドラ・クラブでも同じくイギリスのバンドを使いたいと考えたのです。
「アラン、いいバンドを紹介してくれ!」

ハンブルクって、どんな町?

ここでちょっとだけハンブルクのご紹介。
正式名称は自由ハンザ都市ハンブルク。世界史の教科書にも出てくる「ハンザ同盟」を構成する、中世以来の自由都市です。人口はベルリンに次いでドイツ第2位。エルベ川沿いの港湾商業都市と言いますから、つまり、海に生きる荒くれものの集まる、金と女と暴力の町(一部地域に限られる)ですね。ここらへんは港町リバプールとそっくりです。
この一部地域というのが、ハンブルクのザンクトパウリ地区にある歓楽街、レーパーバーンです。「世界で最も罪深い1マイル」などとも称される街ですが、この歓楽街に、スタークラブなど有名なライブハウスが軒を連ねます。ビートルズはこんな荒っぽいところで演奏技術を猛烈に進化させるのです。


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