変な人 (25)新宿の怪人デニム男
その男とは、いつも駅の近くで出くわした。
身長は165cm程度。推定年齢65歳。
髪の毛はランボー風で、6割がたが白髪。
意志の強そうな目、といったらよいのか、必要以上に一点を見つめるような強いまなざしが、ごつごつした感じの顔の中央で輝いている。
これまで出会ったこと4~5回。
四季折々。寒い日、暑い日。涼しい日。
その男は凍えるような寒い冬の日も、気温40度近い暑い夏の日も、いつも同じ格好をしていた。
全身デニム。上も下も、デニム。
怪人デニム男だ。
男が身に着けているデニムの面積は、とても小さい。
スギちゃんという芸人さんがいる。上下、同じくデニムで身を包む、いわゆる一発屋さんだ。
上着はそのスギちゃんとほぼ同じ、袖なしデニムをチョッキのように着こなしている。
問題は下半身。
その男は、いつもいつも、こんなに短いパンツを穿いていた。
目から入る風景に「暴力」という表現が使えないというのなら、男がどんなものを着ていようと、まあ、その男の勝手であろう。
しかし、全身筋肉質、推定65歳にしては凄い筋肉のついた太腿のギリギリ根本まで見えるこのファッションに、人々は一瞬はっとし、しかる後に目をそらし、道を開ける。
そして、後になって夢にまで出てきそうな怪人デニム男のデニムホットパンツの映像を脳裏に焼き付けてしまう。これはちょっとした暴力かも。
そんな怪人デニム男と久しぶりに出会ったのは、コロナ渦の真っ只中でのことだ。
町を歩くにも、全市民がマスクを装着している。
いつもの駅の改札近く。全身デニム、そして筋肉をまとった男は、道の真ん中をこちらに向かって歩いてきた。
そして顔にはマスク。
しかしその素材と形は、生まれて初めて目にするものだった。
デニム!
デニムマスク!
そう、男の顔に装着されたマスクは、おそらくはその男の手作りであろう、ケツポケットデニムに紐をつけたものだった。
あまりの衝撃、あまりのデニム愛、あまりの期待通りのその姿に、私は一瞬棒立ちとなり、すぐ隣を通り抜けた男を振り返り、後姿を見送る。
そこにはデニムホットパンツからはみ出す男の下ケツが、ただ揺れているだけであった。
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