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NotoNote #3|穴水

NotoNoteは、2024年1月1日以後の能登半島と東京に住む「私」についての文章です。地震に関する生々しい写真や表現は避けるようにしていますが、不安な方は「今なら大丈夫」と思える時を待ってからお読みください。

青信号を直進すると、小さな町があらわれた。

家。家だったはずの瓦礫。家。家。瓦礫

工事のお兄さんたちが立っている。「図書室」と書かれた建物は少しだけとびらが開いていて、中に人かげが見えた。道の駅に車を停めると、むかいには「復興のきざしcafe」と書かれた看板。

あまりにぐちゃぐちゃのところもあるけれど、小さく人人の暮らしが息づいているのだと分かった。

道の駅に入ると、3人の店員さん。栄養がありそうなお弁当や、能登のおみやげなんかが売られていた。

店員さんの1人に「このへんで開いているごはん屋さんはありますか?」と尋ねる。
「お寿司でいい?」と聞かれて、反射的に「はい」と答える。

「あそこに、能登丼って書かれた黒いのぼりがあるでしょう」
店員さんが指さす方には、大きく崩れた建物。それに目を奪われて、能登丼ののぼりが見つけられない。

「ほら、あそこよ」
「ああ、見つけられました」
「あそこが、お寿司屋さんだから。行ってみて」

ガラガラ
とびらを開けると、「いらっしゃい」
カウンターに大将が立っていた。

奥に、地元の人と思しきおじちゃんたちが3人。おしゃべりが止まらず、仲が良さそう。カウンターに座ると店員さんが「あがりです」と分厚い湯飲みを持ってきてくれた。

地物を使ったネタが食べられるというコースを注文する。タコとイカが苦手だと言ったら、エビとサーモンにかえてくれた。

お寿司は、どれもすごくおいしかった。本当にどれもおいしくて、目がまんまるになる。おいしい。
ブリの子ども、カツオ、サザエ、真鯛、あとあら汁もおいしかった。

おなかがふくれて、心がほぐれて、「来られてよかった」と言葉ががもれた。

途中で、また地元の人たちが入ってきた。
大将とは馴染みのようで、冗談を言い合いながら会話を弾ませる。
先にいたおじちゃんたちも会話に加わって、店内はとてもにぎやかだった。

この人たちの暮らしは、今日も続いている。

お会計のとき、いつからお店を開けていたのか尋ねてみた。「6月の真ん中くらいですね」と教えてくれた。ちょうど1か月くらい前か。
「すごくおいしかったです、また来ます」と伝えると、水色の能登応援ステッカーをくれた。

道の駅に戻って、店員さんにお寿司のお礼を伝えた。

能登のおみやげを買って道の駅を出ると、あたりを大量のつばめが飛び回っていた。スズメかと思った。
その横では、制服姿の高校生たちが、おしゃべりしたり、ゲームしたり、走り回ったりしている。

穴水には、たぶんもっと人がいた。もっとお店が合って、もっと美しかった。私は、今日より前の穴水と出会うことができない。

でも今日の穴水も、十分すぎるくらいに素敵なところだった。人と人、人と自然があたたかく交わるこの町が、とても好きだと思った。

今日から後の穴水を知ることは、私にもできるかもしれない。


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