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嵐の中を往く

夜遅くに仕事場をでたときには
既に南風が強く吹いていた。
低気圧が東の海上を通りすぎようとしていた。
海岸は、歩くことすら怖いくらいに
強いオンショアが吹き荒れている。

朝になって
強い雨が吹き付けたり弱まったり
また急に雨が強くなってが続くなか
僕は雨雲レーダーを睨みつけながら
濃い雨雲の間隙をねらって
自転車を走らせた。

首尾よく雨雲は薄く
それほど気にならない程度の雨だったけれども
南風は地鳴りのような音をごうごうと鳴らしながら好き放題に暴れていた。
いつもは海沿いに走る道のりだけれども
何も遮るものがない海岸にでるのは危険だから
建物の間の風が弱まる道を選びながら往く。
道は細い方が風が吹き込んでこない。
そんな路地も、目的地まであとすこしの場所で海岸沿いの国道に合流する。
そこから数百メートル
ギアを落として
ハンドルを強く握りしめて
風に持っていかれないように
前かがみになって夢中でペダルを踏む。
橋を渡る。
風が凶暴な力で川に吹き抜けていく、たったの10メートルが
怖い。
左右によろめく自転車をなんとか押さえつける。
橋を渡ってから
海からの風とビルにあたった風にもみくちゃにされそうになりながら
最後の数十メートルをなんとか耐え
細い路地に滑り込むことができた。
路地はとつぜん静かで
五感と全身が圧力から解放されるのを感じながら
自転車から降りて
自転車のスタンドを立てて
仕事場の扉をあけて
暖かくて守られた部屋へはいる。









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