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読書メモ

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読書記録のまとめ。
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#チボー家の人々

読書記録「チボー家の人々 エピローグ」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 最後のエピローグはIとIIの2巻。 1918年5月。 戦争となって4年目。何もかもが変わってしまっている。 アントワーヌは1917年の11月にマスタードガス(イペリット)にやられ、療養している。旧知のバルドーと良き友人となり、治療の日々。体重は落ち、声はかすれ、すぐに咳き込み長く話すことも出来ない。 エピローグを読んで分かる、この壮大な物語の真の主人公はアントワーヌだったのだと。 アントワーヌの近くにいた人たち、愛国心に溢れていて

読書記録「チボー家の人々 1914年夏 IV」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 フランスでも動員令が発令。皆が死へ、戦争へと向かっていく。ただただ悲しい一巻。 自国を守るのだと戦争支持に舵を切った社会主義者たちとは違い、ジャックは本気でヒューマニズムを信じていた。 アントワーヌに会いに行くと、そこにはロワやスチュドレル、そしてフィリップ博士もいた。 フィリップ博士はさすがアントワーヌの師という感じがする。戦争に向かう教え子たちに向かって言う。 ジャックはアントワーヌにジェンニーとのことを打ち明ける。今このとき

読書記録「チボー家の人々 1914年夏 III」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 ジャックがメネストレルの指令でベルリンに赴くところから。 電車の中での会話からドイツ側からの見方が読者に提示されるのは見事だ。 アントワーヌがフランスは平和主義だと思っているのと同じように、ドイツも自分たちの国は平和主義だと思っている。 ジャックの任務は受け取った書類をメネストレルのもとへ運ぶこと。 書類を盗み出す場面はちょっとスパイ小説っぽい。 ジャックの気持ちの中では書類を盗む行為への違和感と、危険な任務でなくてほっとした気持ち、

読書記録「チボー家の人々 1914年夏 II」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 全4巻のうち2巻目。 第一次世界大戦が勃発するのが1914年7月28日。この巻のはじめの日付が7月21日。 1日ごとに状況が変わり情報も錯綜する、緊迫した日々の様子が描かれていく。 物語を通してその動向が描かれるジョーレス。彼の創設した新聞社ユマニテにジャックも足繁く訪れ、情報収集している。このジョーレスは実在の人物。 ジョーレスは絶対平和主義、正義のヒューマニズムにのっとって資本主義制度内における社会主義的改革を理想とし、労働階級

読書記録「チボー家の人々 1914年夏 I」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 全4巻のうちの一巻目。 ローザンヌからジュネーブに移ったジャック。 様々な国からローザンヌに集まった仲間たち。彼らの政治論争が多め。 ジャックはその中に身を置き、仲間を尊敬しているものの彼らとは距離を置いた視点でものをみている。 ブルジョワに生まれ育ち、その価値を完全否定しないジャックの態度は仲間にとって時に腹立たしい。 仲間のひとりのミトエルクが言う。 そんな彼らに届いたサラエヴォ事件の一報。 考え方は違っても戦争は避けなければな

読書記録「チボー家の人々 父の死」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 時間をおかず、ラ・ソレリーナからの続き。 父のもとへ向かうジャックとアントワーヌ。 そこで父とジャックが最後に対話をする、などというのは物語の中だけの話であって、現実はそう甘いものではない(この本だって物語なのだが)。 (以下ネタバレ含む。) 3分の1ほどは、父を看取るまでの数日だが永遠にも思える時間。医者として多くの患者の最期を、そしてその家族をみてきたアントワーヌにとっても身内の最期は想像を超えた重たいもの。患者に相対するときの

読書記録「チボー家の人々 ラ・ソレリーナ」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 ジャックの家出に至るまでの謎が少しずつ解明される。 前半はチボー父の様子から。病状は進んでいる。もう死ぬのだと周りに言ってみて、周りの反応を試してみたりする。 看護師のセリーヌや秘書のシャール氏、そして”おばさん”はじめとする女中たちの言動は病人を不安にさせてしまう。 そんな中で、確固とした調子でしゃべり、一瞬で父を安心させてしまうアントワーヌ。アントワーヌが病人の精神状態もケアする優秀な医者であることが分かる。 そんな中で父が話し

読書記録「チボー家の人々 診察」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 美しい季節から3年後。 アントワーヌの診察の、わずか1日の様子に丸々一巻を割いている。 ジャックは失踪しているようだが、あくまでアントワーヌの診察のある1日の描写なのでその真相は分からない。ダニエルたちフォンタナン一家の様子もまた分からない。 父は病で長くベッドにおり、アントワーヌは父の死期を悟っているが医者としてそれを態度には出さず様子を見守り続けている。 フォンタナン家に居候したのち結婚したニコル。彼女の産んだ小さな娘は医者とし

読書記録「チボー家の人々 美しい季節」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 美しい季節編はIとIIの2冊。 少年園編から5年が経過。 アントワーヌとジャックの2人暮らしは続き、この期間、ジャックがエコールノルマルへの試験のため勉学に励んでいたことがわかる。 写真はメゾン・ラフィット(Maisons-Laffitte)。パリから18kmのところにある。 チボー家とフォンタナン家が別荘を持ち、夏の休暇を過ごす場所。 ジャックとジェンニー、アントワーヌとラシェルの恋愛模様をメインに話は進んでゆく。 エコールノル

読書記録「チボー家の人々 少年園」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 少年園編は大まかに2部構成。 前半は家出騒動の後、父の創設した少年園に入れられたジャックを兄のアントワーヌが救い出すまで。後半はパリでの兄弟2人の生活。 コロナ禍で閉塞感のある生活をしているせいだろうか、ジャックの少年園で置かれた生活とその精神状態に共感を覚えてしまった。 ジャックは精神的・肉体的な圧迫を受けて極限の精神状態にあったと思われるので、自分の状況と比べるようなものではないかもしれない。 それでも、怠惰で何の刺激もない、でも

読書記録「チボー家の人々 灰色のノート」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳 白水uブックス 1984 ノーベル文学賞も受賞しているロジェ・マルタン・デュ・ガールの長編小説。 白水uブックスで全13巻。 作品について。 1920年に着手、エピローグが1939年。 1914年、第一次世界大戦勃発と同時に、マルタン・デュ・ガールは動員され、自動車輸送班に編入。戦争終結とともに除隊となり、4年におよぶ戦場での生活が終わったのちに着想を得たのが本作、チボー家の人々。 この小説は当初は戦争をそれほど大きな要素として含む予定ではなかったという。第二