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soto wa ame / 街 - EP セルフ解説

2023年の頭くらいに音楽的同位体 裏命ちゃんを導入してからちょこちょこ制作してYouTube/ニコニコ動画で発表していた楽曲を、この度EPという形にまとめて5曲入りで配信開始しました。

https://linkco.re/tVaH34v5

個人的には自己表現的な創作というよりは技術情報の共有みたいな目的で音楽を作るのが楽しいので、今作もできるだけ背景情報を書き残しておいて、オープンソース的な感じで誰かの創作のアイデアに繋がってくれれば嬉しいなと思います。


裏命ちゃん、上手に使ってる人はほぼ人間の歌手と聞き分けられないくらいナチュラルだし、単なる仮歌ツールではなく一人の歌手として強い個性を持ってるのが使っていて面白いです。逆にいえば、かつては初音ミク等のVOCALOIDを使って製作した楽曲を、人間の歌手を招いてライブで演奏する、もしくは「正式な音源」として肉声で再録する、といったような活動をしばしば見かけることがありましたが、裏命ちゃんで制作した楽曲については、ボーカルの個性が非常に強いので、声質が近い歌手を見つけない限り人間に置き換えるのはかなり難しいのではないかと感じます。最終的にライブをすることがゴールなら初音ミクやその他のツールを使ったほうがよいかも。
でも、往年のVOCALOIDや他のAIシンガーと比べてアニソン/声優的な歌い方のクセが強くなく、インディーロックやR&B等にも自然に対応できそうな可能性を感じられてとてもワクワクします。それこそ羊文学やリーガルリリー的な楽曲にも限りなくナチュラルに対応できそう。もっとボカロ文脈外のバンドマンやDTMerの使用者が増えてくれたらとても嬉しいです。

また、今作の内容については(私と趣味の近い人はすぐに気づくかもしれませんが)90年代のUSオルタナティブ/グランジ、および2010年代~現行のエモゲイズやヘヴィゲイズというジャンルで括られるようなUSのバンド群をリファレンスにしています。今作は裏命ちゃんをボーカルとして使用していることから、ジャンルで言えば「ボカロ系」に括られる作品になりますが、国内のインディーロック・シーンを見渡しても近年のエモゲイズ/ヘヴィゲイズをリファレンスにしているバンドはまだ数えるほどしかない(Hollow Suns、Otherside、とがる、Zanjitsu etc.)印象なので、このようなタイプのサウンドを日本語に落とし込むアイデアの一例としても聴いてみていただけたら嬉しいです。

使用ソフト

ドラムの打ち込みは約10年前に購入したNative Instruments KOMPLETE 8に同梱のStudio Drummer(Komplete用ライブラリ)をスネアのチューニングちょい下げで使用。
ギター/ベース用のアンプシミュレーターも同バンドル同梱のGuitar Rig 5を使用。実機のエフェクターは使用せずGuitar Rig内のみで音作り。
1曲目のポエトリーパートはVOICEVOX 冥鳴ひまりを使用。2~5曲目のボーカルはCevio AI 音楽的同位体 裏命を使用。
EP化にあたって一応全曲アンシミュの音作り、ミックス、マスタリングを見直しています。

各曲コメント

1. 街

2~5曲目は特にパッケージ化することを考えず単体の曲として制作していたものなので、EP化するにあたり何かしらコンセプチュアルなイントロを追加した方がまとまりが出るかなと思い作成。後に続くCevio AIの楽曲に雰囲気を合わせるために、AI合成音声を使ったポエトリー的なのを入れたら面白いかな~と思い色々漁ってみたところ、VOICEVOX 冥鳴ひまりが低血圧めでナイスだったので使用してみました。バックトラックは下北沢南口商店街~Three/Basementbar間を何往復かしながらフィールドレコーディング。I have a hurt / deep slumberの1曲目みたいにしたかった。

2. フリージア

ドロップC#チューニング。YouTube/ニコニコ動画にはアップしていない新曲。作り始めは結構モロにNarrow Head - Moments of Clarityを意識していましたが、音作り時にFiddleheadとかを参考にちょい軽めになるよう調整したので聴き心地はちょっと離れてるかも。
きのこ帝国~羊文学やその影響下のアーティストが多用しがちな♭3rdのブルーノートを使ってみたくてCメロ部分に入れてみたんですが、ちょっと小慣れてない感あるかも。
この曲に限らずですが、本EPの2~5曲目のコード進行はほぼ全てドロップC#またはDチューニングの9thコード(2244xx、5577xx、881010xxみたいなやつ)のみで構成されています。これもUSオルタナ/グランジでは超多用されているものの邦ロックで使われる機会があまり多くないので、自作曲でがっつり試してみたかった要素の一つ。

3. 放射冷却

ドロップDチューニング。2023年2月の動画公開時に「放射冷却」という名前の既存曲がほとんどないことを確認した上でリリースしたんですが、翌年にyubioriが同名の名曲をリリースしたことでモロ被りになってしまい若干ショック。
基本の循環コードとリズムパターンはHUM - The Podのメインリフを少し転回させたもの。間奏はTOOL - Jambiのギターソロをちょっと意識。
本作のなかでは重さ/ポップさ/暗さのバランスが一番ちょうどいい塩梅に収まっていて個人的にけっこう気に入ってます。

4. トロイメライ

ドロップC#チューニング。trauma ray - Halley、HUM - Wavesあたりを参考にしつつ制作。本作のなかでは一番現行USエモゲイズ/ヘヴィゲイズっぽい音に仕上がりつつ、邦インディーっぽいボーカルのメロディラインやコーラスワークを載せられたのでけっこう気に入ってます。

5. 遠泳

ドロップDチューニング。2023年頃から徐々に話題を集めている遠泳音楽(Angelic Post-Shoegaze)とは全然関係なく寧ろ土臭い系のグランジ/オルタナチューンです。Will Yipがレコーディングした曲ってだいたい4拍目とか8拍目のスネアにタンバリン重なってるよな~、逆にこのタンバリン入れたらWill Yip録音っぽくなるんじゃないかな、と思いながら作った曲。ドロップD+9thコードでオルタナっぽい音作りにして循環コード鳴らすと必然的にEverlong感出てくるよね。
この曲では他の曲に増して裏命ちゃんのハイトーン+ロングトーンを多用してみたんですが、この音域だとリーガルリリーのたかはしほのかちゃん感が強く出てきて非常によい。もっと音域高い曲も試してみたいですな。

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