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吉村昭「黒船」(中央公論社1991年)


通訳としてペリー来航時に参加した堀達之介の生涯をえがいた作品である。重厚な内容になっているのはいかにも吉村作品。


その後のロシア艦隊との交渉が達之介の運命を狂わす。
プロシア商人ルドルフからの国交開設要請書を奉行宛になっているにもかかわらず、私人の書簡として取り次がなかった責任を問われ、何と江戸送りになって4年半の入牢を余儀なくさせられる。彼を救ったのが蕃書調所頭取古賀であった。達之介は教授職を務める傍ら古賀の指示で英和辞典の編纂を行う。


4年半の入牢の経験。後輩の後任として函館に赴いた時に気付いた英語会話能力の不足。同僚の困惑(辞書を出して日本一の英文大家と思われていた)、函館奉行以下の蔑視のまなざし。英語と米語の相違までには思い至らぬ役人たち。10年間、英会話と隔絶されていた環境への顧慮もない。


 アイヌの骨をイギリス領事館が持ち去った事件の小出奉行の姿勢は、少し当時の雰囲気を超えていないだろうかという感じはするが、本書の白眉である。


 函館戦争で青森へ避難。そこで知り合った美也との結婚。幸せな函館生活も突然訪れた美也の病死で終止符を打つ。政府の彼に対する評価は後輩よりも低い事実に衝撃を受けた達之介は、辞任して故郷長崎へ。何もなすことなく次男の大阪の家で明治27年春死去。


「海の祭礼」も読んでみたい。

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