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気候変動によって変わるレストラン経営とワイン投資

 
 国内では2023~24年にかけて飲食店の閉店数が急増している。帝国データバンクの調査によると、負債1000万円以上の法的整理による飲食店の倒産件数は、コロナ禍による休業期間が長引いた2020年に並んで高くなっている。

飲食店の経営悪化は中小店舗だけではなく、大手のフードチェーンにも及んでいる。日本フードサービス協会の統計では、ファーストフードやファミリーレストランの店舗数は、2019年との比較でおよそ1割減少した。フード企業の経営は、食材と人件費の高騰により厳しくなっているため、店舗を好採算のエリアに集約する一方で、メニューの値上げをして客単価を引き上げることで業績を維持しているが、外食の回数を減らす消費者も増えている。

■外食産業市場動向調査(日本フードサービス協会)

さらに、輸入食材については、世界情勢の悪化、輸送費の値上げにより上昇の一途を辿っている。海外のインフレ率は若干落ち着いてきたものの、気候変動による生産量の落ち込みもあり、世界での需給がひっ迫している。

ここ数ヶ月で価格が上昇しているものには、チョコレートの原料となるカカオがある。カカオの生産農家は、赤道直下のコートジボワール、ガーナ、インドネシアなどに集中しているため、気候変動の影響を受けやすいが、2023年後半には甚大な豪雨被害が起きた。さらにカカオの木に疫病が広がったことで収穫量の減少が予想されて、ココア先物市場は2023~24年にかけて、300%以上の上昇率となっている。カカオ豆からは、3分の2がチョコレートの原料、3分の1がココア粉末が製造されている。

■米国ココア先物チャート(investing.com

ワインについても、世界シェアの6割を占めている欧州では、過去500年で最悪となる干ばつが起きており、ワインの生産量は落ち込んでいる。ただし、コロナ禍以降にワインの消費量は減少したため、今のところ価格は均衡しているが、高級ワインの希少性は高まる一方で、一般消費者にとっては手の届きにくい嗜好品になりつつある。

このような気候変動による農作物の影響は避けられないものだが、温暖化する地域が増えたことによる新たな生産地の開拓や、サプライチェーンの見直しによるビジネスチャンスも生まれている。食材原価を下げるという点では、代替食材にも新たな需要が生まれている。

【気候変動で変化するワイン投資】

 欧州に有名なワイン産地が多数あるのは、雨が少なく、温暖な日が続く「地中海性気候」がブドウ栽培に適しているためだ。 ブドウは雨に濡れると病気が発生しやすくなる。石灰岩や火山土の水はけが良い土壌も、ブドウ栽培に最適な環境と言われてきた。

しかし、もともと降水量が少ない土地に、干ばつが起きるとブドウが小粒になることが報告されている。さらに干ばつで水分が少なくなった土地に豪雨が降ると洪水が起きやすく、病害虫の被害も発生しやすくなる。ブドウの葉にカビが広がっていく「べと病」は、イタリア、スペイン、ギリシャなどに広がっており、発症すると菌糸の飛散で二次感染していくため、地域の畑全域に被害が拡大している。

こうした気候変動は、当然ながらワインの品質にも影響を与えることになる。通例では、生産量が落ち込んだ年のワインは希少性が高まるため、投資的な価値も高くなる。しかし、異常気象が常態化してくると、これまでの有名ワイン産地が、今後も品質を維持していけるかという懸念が生じてくるため、投資リスクも高くなる。一方で、気候変動の影響が緩やかな新興のワイン生産地が注目されている。

ワインに使われる代表的なブドウ品種は、いずれも気候変動により収穫量が落ち込んでいるため、新たなブドウ品種が模索されている。オーストラリアは以前から代替ブドウ品種の栽培に積極的な地域で、多様な品種によるワイン作りを行うことで国際的な評価が高まっている。

成功の裏側には、オーストラリアはワインのブランド化を強化するため、地理的表示制度(G.I.Geographic Indications)を推進していることがある。この制度では、特定の地域で栽培されたブドウから生産されたワインに対して、政府が原産地認証を行い、偽物が出回らないように法的な管理をしている。

この仕組みは、フランスのワイン認証制度「AOC(原産地呼称統制)」と似ているが、AOCはブドウの品種と栽培方法が細かく規定されているのに対して、オーストラリアのG.I.制度は、ワインの原料として、産地のブドウを95%以上使用してれば認証されて、品種と栽培方法までは決められていない。そのため、各生産者が、土地と気候の条件に合わせた独自のブドウ栽培にトライすることができる

オーストラリアではG.I.認定された65のワイン産地で100種類以上のブドウ品種が栽培が栽培されている。代替品種によるワイン生産量は、全体の3%前後のため、短期間で伝統的なワインが衰退していくわけではないが、気候変動が急速に進んでいることを考えると、ワイン生産業者にもイノベーションが求められるようになっている。

【ワインの投資価値は続くか?】

 ワインの需要は、カジュアルな愛好者に加えて、投資目的の購入もある。ワイン投資家は「当たり年」と言われる収穫年のワインをケース単位(12本入り)で5箱以上購入して、毎年1本ずつ試飲して風味を確認しながら売却時期を決めている。ワインの価値は、世界的なコンテストで評価されたものが上昇していく可能性が高い。

英国のワイン専門誌、Decanterが行う「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード」は、世界最高峰のワインを決める大会として知られている。世界57カ国の生産者から18,000本以上のワインが出品されて、200人以上のワイン専門家やソムリエが審査を行う。その中で、2023年の優秀ワインとして最も多く選出されたのがオーストラリアである。これは気候変動に適応したワイン作りに取り組んできた成果であり、世界のワイン投資家も注目するようになっている。

■Decanter World Wine Awards
■大会の紹介映像
https://youtu.be/hNtfTQFeK5A

オーストラリアで2011年に創業した「Vinomofo」は、オーストラリア産のワインを専門に扱うECサイトで、生産者と国内外のワイン愛好家、投資家との仲介をするコミュニティの役割も果たしている。

同サイトが取り扱うのは、オーストラリア産の中でも社内の試飲で厳選された上位5%のワインで、満足度が高いものだけを売るというスタンスだ。そのため、顧客が12本入りケースを購入したうち、2本を試飲して気に入らなければ、返品と全額返金に応じる保証制度を付けている。

さらに、新しいワインとの出会いを求める顧客に対しては、「ブラックマーケット」という販売コーナーも設けている。こちらは、ワインのブランド名を隠したまま、コンテストの受賞歴やスコアのみを表示して販売するもので、購入者は、商品が届くまでブランド名がわからない。ただし、価格は通常の50~70%割引で販売される。知名度はまだ低いが、品質には自信のある新興ワイナリーは、ブラックマーケットを通して、ワイン通の顧客に自分達の商品を知ってもらうことができる。

■Vinomofo
https://www.vinomofo.com/

こうしたユニークな販売手法により、Vinomofoでは世界で50万人もの顧客ネットワークを築くことに成功して、同社の売上は急成長している。しかし、赤字のイベントや国際送料の負担増により、利益率は低いことが懸念材料として指摘されている。さらに、若者のアルコール離れにより、今後もワインの人気と投資価値が維持できるのかは、不透明な部分もある。

JNEWS LETTER 2024.4.21 より
JNEWS LETTERは、主宰者の逝去により、残念ながらこの号をもって、廃刊されました。思えば、1996年、インターネット元年の翌年に創刊された同誌は以降、28年に亘って、文字ベースの情報を丁寧に取材し流していただきました。私がネットに触ったのが、1995年ですから、ずっと28年のお付き合いでした。
 

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