silent8話の亡霊
孤独【こどく】-ひとりぼっちであること
辞書によると、孤独とはひとりぼっちであることらしい
だけど、ひとりじゃなくても感じる孤独がこの世にはある
誰かといる時に感じる「ひとり」の方が「ひとりぼっち」より私は寂しかったし、私がもし辞書を作るなら孤独のページにはこう書きたい
『孤独【こどく】-自分の気持ちが相手に届かないこと』
8話の亡霊というタイトルをつけながら7話の話をしてしまうのだけど
7話の冒頭、振り返った奈々の目に紬を追いかける想が映るシーンはなぜだか私には心当たりしかなくて
思わずテレビから目をそらしたくなった
奈々は耳が聞こえない、ということはつまり足音が分からない
もしかしたら想が追いかけてきてくれているかもしれないとわずかな最後の望みで振り返ったんだとしたら──
そこまで想像すると、恋愛が生み出す"選ばれる者"と"選ばれない者"の生々しい残酷さと、奈々の孤独感がより一層伝わってきて私はそろそろ呼吸困難で息絶えてしまう
何より私は、こんなシーンを書ける脚本家の生方さんのことがいよいよ他人と思えなくなってきている
もしかしてお泊まりの約束をすっぽかされて、他の女の子とご飯を食べに行かれたことがあったりしないだろうか
もしくは実家に帰るから会えないと、付き合って初めての誕生日に言われたりしていないだろうか
恋愛におけるそんな自分の過去を振り返ると、そこにいるのはあの7話冒頭のひとりぼっちで歩く奈々のような自分で
選ばれることを諦めるのだけがすっかりうまくなった女の子は今、30歳も半ばになってすっかりsilentに取り憑かれ亡霊になってこれを書いている
こうやって文章にすることであの好きな人に選ばれなかった奈々や、奈々に重ねる昔の自分を後ろから追いかけて抱きしめてるような、そんな気がしている
もしあったら言うから、ちゃんと言うから
伝わらない「ありがとうございました」が増えていっても、どうして奈々は
「ありがとうございますは使い回しちゃいけない」って思い続けていられたんだろうか
silentを観ていると声で話せる話せないという伝達手段の違いがあっても
気持ちを伝えるという行為の大事なことはきっと違うところにあるのかもしれないと度々思わされる
1話のラスト、何言ってるかわからないだろ?と泣きながら手話をしていた想とその通りだった紬が
その手話さえも使わなくても通じ合った8話の冒頭、想が紬を抱きしめるシーンで強くそれを感じたし
『今後私と一緒にいるのが、大変とか迷惑とか疲れるとかそういうのあったら言って?
私は、ないから。
今後もしあったら言うから、その時はちゃんと言うから』
『わかった』
のやり取りは、ちゃんとお互いの気持ちがまっすぐ相手に届いていて、
想は耳が聞こえなくなって、声で話すことが怖くなり周りに自分の気持ちを伝えるということを少しずつ諦めて手放してきただろうし
そんな聞こえない想に何かを「言う」、「気持ちを伝えよう」とする人もきっと少なかったんだろうなと思うと
紬の『ちゃんと言うから』は想にとってどれだけ安心して嬉しかっただろうと想像して泣けてしまった
紬や周りの人たちとは気持ちを通い合わせることが少しずつ出来てきた想を次に待ち構えているのはきっと家族、特に母親との関係だと思う
母の愛してるは本当なら子どもがどこにでも飛び立てる翼となるのが理想的だけど、時にはその愛が子どもにとっては重りとなって、縛り付けるものに変化してしまうことがある
私もそんな母の愛を受け止めきれずに反発して、想のように距離を置いた時期が長くあるのだけど
そんな娘としてではなく、母として生きている今の私には
時折出てくる想の母の気持ちも実は苦しいほどにわかる
想のお母さんの愛してるも、想の心配しないでほしい気持ちもどうかまっすぐお互いに伝わりますように
雪の結晶が溶けることなく、降り積もりますように
ここからストーリーがどう展開していくのか分からないけどあまりにもsilentの随所に心当たりがある私はそう願ってしまう
早いものでもう木曜日
また今晩、私はsilentを見ながら過去の自分を抱きしめに行く。
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