母の気持ちと私の覚悟

 勤めている会社にテレワークの制度があり、家族と離れ実家に戻り母の介護を始めて6ヶ月がたつ。

 少しずつ衰えがみえる母は、なかなかトイレで用を足すことができず、オムツをしていても、お漏らしをする日が増えてきた。その度にシートやパジャマを洗って干すのだが、雨だと乾かず、替えがなかったり、乾ききらない洗濯物で物干し竿が一杯になったりする。だから、朝起きて、晴れているとホッとする。

 そして母を起こしにいく。そこで布団が濡れてなければひと安心。布団が濡れていても、それを口にして母のプライドを傷つけないよう気をつける。とりあえず母を車椅子に乗せて食卓へ連れて行く。合間を見て濡れたシーツとバスタオルをお風呂場で水を入れたタライで手洗いしたあと、洗濯機へ入れる。

 少し前までは布団が濡れているとイライラしてしまい、それをおもむろに口にした。そのほうが、母も気をつけてくれるだろうと思った。

 そんな日々を繰り返すうち、母が反抗的な態度を取るようになってきた。もしかして怒ってるのか?少し気になったが、日常は流れていく。いつものように私が母の濡れた布団のシートを交換していたら、交換せんでええ、濡れちゃあおらん!と激しく怒鳴られてしまった。

 うーむ、テレワークまでして介護しにきているのに、なんて自分勝手な母だと思った。ただその一方で、温厚な母がなぜあんなに怒ったのかが気になる。何日か考えて、私のその場の態度が母の心をひどく傷つけていたんじゃないかと思うようになった。

 母は私から言われなくても、布団に漏らしてしまう自分を不甲斐ないと感じていたのではないか。あるいはそう感じたくなくて、本当にしてないと思いこんでいたのかもしれない。

 どちらにしても母は傷つき、そこに私が追い打ちをかけた。

 今は母のお漏らしに対して、なんでもないように振る舞い、傷つけないようにしている。相変わらず漏らすこともあるが、洗えば済む話だ、介護の手間を惜しんではいけない。

 そして二人の関係はもとに戻った。いやむしろ良くなり、ハッピーだ。会話に笑いが増えた。

 ただ母の衰えは少しづつ進んでいく。今日できたことが明日できるとは限らない。お漏らしやその他の今の問題はまだささいなもので、そのうち深刻な問題がでてくるのかもしれない。でも起こるかどうかわからないものを心配してもしょうがない、それはそれ、そうなったときに考えよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?