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あらためて、言葉って何だっけという話  (その2)

言語を動かす脳のしくみ

左脳のある部分を損傷すると言語能力が著しく落ち、失語症になることから、脳の特定の部分が言語をつかさどることはわかっている。

たとえば、左脳の「ブローカ野」を損傷すると、多くの場合文法にのっとった文をしゃべる能力が失われることが多い。単語とその意味は理解できても、統語ルールにのっとって論理を運用できない例が多いらしい。

同じ左脳のもうすこし後ろの「ウォルニッケ野」を損傷すると、まったく別のタイプの失語症になる例が多い。このタイプの失語症患者は文法にのっとった話し方で流暢にぺらぺら喋るものの、内容がまったく意味をなさないんだそうだ。失「語」というより「意味」が失われるといっていい。世界の意味と意識の間のコネクションが切れてしまうという症状。これは怖い。

とはいえ、ウォルニッケ野付近を損傷した患者の約10%がブローカ様の失語症になり、ブローカ野を損傷した患者の約10%がウォルニッケ様の失語症になることもある。

かと思えば、動物の名前といったような特定の名称だけが失われる、ピンポイントな失語症もある。

ものの名前や文法が脳のなかのどこにどんなふうに格納されているのかは、メカニズムもその位置も、結局まだ全然わかってはいないのだ。

空間認識や動きの認識に対応することがかなり精細にわかっている視覚野とおなじように、名詞や文法に対応する野があるかもしれないが、それはあちこちに水玉模様や縞模様のように散らばったり、人それぞれに違う入り乱れた形になっているのかもしれない、とピンカーは書いている。

脳の中で言語をつかさどる箇所が常に一定の場所にないことは、脳に電極をさして発語機能がどのように阻害されるかを確かめるという実験で、かなり実証されているという。

脳はかなり可塑的でファジーなものであることは間違いない。そのハードウェアの上で動くソフトウェアである言語や意識も同様。

科学の手法というのは黒か白か、1か0かでひとつひとつ事実を詰めていくものだけど、そのための計測目盛りがまだまだ粗すぎて話にならないということなのだろうと思う。

たぶん、ピンセットでやるべき作業を道路工事のドリルでやろうとしているのと同じくらいのレベルで粗いんじゃないのだろうか。とはいえ、脳科学や認知科学も日進月歩なので、人工知能研究とあわせてブレイクスルーが思いがけずやってくるかもしれない。

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