『愛でる』　1

モーニングルーティン

仕事に行く日、目覚めた途端に考えること。

『身だしなみ』『時間厳守』『天気予報』『体調管理』。矢の如くシュシュッと時間が過ぎる。

思考回路は目的地に一直線。そして次は仕事のこと。いかに効率良くスケジュールと人を回転させるか。無駄を切り捨てベターな方法を模索。

先ずは朝食の時間でウォーミングアップ。
コーヒーは必ずドリップで淹れる。10種類くらいのチョイスを常時そろえている。豆はその日の気分で選ぶ。

今日はモカブレンド。
沸騰して弾ける湯を電動ポットから注ぐと、乾いたコーヒー豆を湿らせ、部屋中甘い香りが広がった。

パッケージラベルを見たら南米産とのこと。
コスタリカ帰りの人からのお土産だったことを思い出した。
　
デンマークのメーカーFREDERICIA（フレデリシア）社の「トリニダードチェア（TRINIDAD）」に座る。前回のボーナス時に、思い切って購入したお気に入りだ。

控えめで上品なフォルムがとても気に入っている。
そして、滑らかな座り心地はたまらなく気持ちが良い。

コーヒーの柔らかな口触りを味わいながら、、電子版の新聞を読む。さらに、ネットニュースを見て、到着メールにも目を通す。

「ニューヨーク株式暴落」の文字が目についた。
外株投資をリスクヘッジ無しでやってる人はご機嫌が悪かろうと案じた。

さらにこんな日は、日本の市場も材料次第で大荒れになる事が多い。

BGMがわりに流していたテレビがちょうど『今日の占い』を映している。

自分の運勢のラッキーアイテムは聞いたことがないワードが書かれている。そんなものが流行っているのだろうか？何だか流行に取り残された気分だ。

出かける時は、火の元と戸締り。これを忘れると、仕事どころではなくなってしまう。必ず二度チェックすることは欠かさない。

通勤時間

電車に乗れば　乗り換えがないので到着まで自分だけの時間になる。本を読んだりスマホのゲーム機能を使って学習をするのがお決まりだ。

キリが良いところで‥ふと見れば、他の乗客もスマホの画面を見るか本を読むかのどちらか。たまに眠っている人もいる。

今日は爪を切るのを忘れ、指先が気になっている。
たまたま、人前に出る予定のない日だから運が良かったものの、応接室の当番の日などに当たったら一日中憂鬱だ。

先日、同じ部屋の人からお土産をもらった。開けてみると中身はキャラクターのチャーム付きの爪切りだった。

「指先を注目されていたのだな」と悟った。

お気に入りのホワイトティーの香りのハンドクリームを塗ろうとバッグの中を探ったが、どうやら見当たらない。いつも気づくのは電車の中だ。

ハンドクリームの香りで仕事中癒される場面も多数ある。新人の頃は、それこそアトリックスで満足していたのだが、勤務年数が増えるにつけ　香りへの拘りが大きくなっていった。

香水をつけるのを控えるのは、社内の無言のルール。だからこそ、気分転換を兼ねてハンドクリームの香りぐらいは好きな物を選びたいのである。

とりあえず事務所の机の中に予備がある。これも、知人から海外旅行のお土産でいただいたものだったが、匂いが今ひとつ好きではない。取り敢えず着いたら塗ろう‥ いや、昼休みに、隣の商業ビルの店のテスターで好きな香りを楽しもう‥

そのようなことを考えていたら、目的地到着のアナウンスが流れた。

さっきまで、スマホを見ていた人達が　エスカレーター方面へトルネード式の掃除機に吸い込まれる塵のように向かってゆく。自分もその波に乗る。

エスカレーターに乗る時は右側通路を選び、まえに歩く人について元気良くかけ上がる。体調の良い日はいつもそうする。具合が今ひとつの日には、左側通路で少し休憩するのが常だ。

下へ向かって吹く真冬の冷気に逆らいながら、エスカレーターの進む速度と、自力でかけ上がるスピードで改札口へと昇っていった。