嵐の中で輝いて2
これを見ていると言うことは、私はもうこの宇宙には存在していないと言うことであろう。
無限に広がる大富良野。巨大ラベンダーが独特の匂いを撒き散らし、怨讐蜜柑の交配を手助けする頃、彼は佐野SA(つまり、ベストプレイス)で時代遅れのオコジョを模したキャラクターのキーホルダーをまじまじと眺めていた。
「アベックで買って行かれる方が多いんですよ」
不躾なニヤケ面でもう動かない古時計がそう言った。
大きな猫型のイヤリングを揺らし、ケタケタと笑いながらこちらを見ていた。
三角の目をして22:06分を指した時計の針をタッキリと折る。
燃えるようなローファーの肥大化した左がフッフゥと声を上げ、壁にかけられた絵画に吸い込まれていった。
私はとうとう呆れ果て国立能楽堂を後にする。どうせここも半年後にはハリーポッターランドだ。
二の腕が引き締まったマーメイドスカートがJR日高線の軌跡を辿る。
いずみや食堂のきらきらと輝く美しいごぼう天を頼んだ矢先、店に横付けした慇懃無礼なタクシーの運転手は客の一言に身震いした。
「どちらまで?」
「天国まで連れていってください」
ボサボサの金槌にチチカカを全身に纏った明らかにただ事ではない風貌の彼を無事天国まで送り届け、運転手は今年の仕事納めとなった。
そろそろ新しいチーズが欲しいと思い、手稲手稲にあるレア社本社を訪ねる。
「だから、うちでは逆転裁判7は作ってないんですって」
「そこをなんとか」
入り口付近では、真っ赤な服を着て大きな布袋を持った老人と警備員らしき人が言い争っているようだ。
「コロッケ!3 グラニュー王国の謎ならお譲りしますよ」
裏に油性マジックで名前が書いてありますが...と一言断り、ふっと差し込み口を吹いてから彼女に手渡した。
「ありがとう。これで年末退屈せずに済むよ」
ハッピーホリデイ。宗教観の違いに配慮し、彼女はそう言ってリフボードに乗って去って行った。警備員も一安心したように頬を撫で下ろした。
私もなんだか誇らしい気分になり、ざっくり編みセーターに深く突き刺さった犬の毛を抜き取ってから、踵を3回鳴らしてふうわりと宙に浮き帰路についた。
悲しみに満ちた2020年が終わる。
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