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読書記録

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読んだ本の記録です。
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記事一覧

【読書記録】長いお別れ

レイモンド・チャンドラーについては、村上春樹が好んでいる作家と言うくらいの認識しかなく、この『長いお別れ』(とても良いタイトルだと思う)もタイトルだけを知っていると言う風だった。私は推理小説やミステリー小説はほとんど読まない。でも、「シャーロック・ホームズ」や江戸川乱歩の小説を読むのは好きなので、嫌いな訳ではないのだろうと思う。単に興味があまり向かないだけだ。 とても面白く読んだし、マーロウは魅力的な人物だし、「ハードボイルド」と言うものにどうして惹かれるんだろうと、読みな

【読書記録】発光

この本が気になったのは本のタイトルからだった。吉原幸子さんの「発光」と言う詩が私はとても好きで、だから同じタイトルのこの本が気になったのだった。それと装丁のシンプルさにも惹かれた。実際に手に取ってみて、本自体が発光していることに小さな驚きと、何故だかは分からないけれども胸をくすぐられるような喜びとを感じた。文庫本サイズの大きさも良かった。「ハツカネズミの背中」と同じだった。発光している。小さきものから発光している。 本を、本でなくても一行の文章を、読む前と読む後とでは世界が

【読書記録】クヌルプ

普段、ヘッセの詩集はよく読むけれども、小説は何年振りかに読んだ。もしかしたら十年振りくらいかもしれない。ヘッセの小説は『デミアン』が一番好きだ。あの長い、心の旅としか言いようのない暗く、真夜中の一番底を歩き続けるような物語には、苦悩する人達が多く現れた。この『クヌルプ』には、苦悩していると呼べるのは(いや、語られていないだけで誰でも苦悩はしているのだが)クヌルプのみかもしれない。ただ、基本的に三人称で語られるこの物語の中で、クヌルプの苦悩は彼の台詞でしか描写されることはない。

【読書記録】心の青あざ

フランソワーズ・サガンの小説を初めて読んだのは大学生の頃、二十歳前だったように思う。『悲しみよ こんにちは』を読み、私はそこに描かれている「少女」に驚いた。あまりにも「その通り」だったので。『悲しみよ こんにちは』で、サガンは「少女」と言う生き物の持つ潔癖性、純真さ、悲劇性(悲劇を好むところ)、それらが不運にも強烈にあらわれた時に生まれる実際の「悲劇」について書いたように思う。あの小説は主人公が「少女」でなければ生まれなかったし、主人公が「少女」であるからこそのストーリーだっ

【読書記録】魔女狩り

以下、引用のみ。 「われわれはキリスト教を守らねばならない。他人を殺すことによってでなく、われわれ自身が死ぬことによって。……もしも君らが血と拷問と悪しきことによってキリスト教を守っていると思うならば、それはもはやキリスト教を守るのではなく、それを汚し害することである。」(『神性提要』)(p.20) 「人間は宗教的信念(Conscience)をもってするときほど、喜び勇んで、徹底的に、悪を行うことはない。」(『パンセ』)(p.192) 森島恒雄 魔女狩り 岩波新書 19

【読書記録】詩という仕事について

以下、引用のみ。 こうしたものは、われわれの内部に深く根ざしているがゆえに、そのわれわれが分かち持つ、ありふれた記号によってのみ表現され得るのです。(p.33) 彼らはもっと有意義なことを考えていました。その望みは、自国語が原語と同程度に、優れた詩を産むことが可能であることの証明でした。(中略)ある作品を読んで、自分の力のおよぶ範囲で、自分の物した言葉の既知の可能性のなかで、自分なりの作品を産んでいく、そうした詩人の仕事としてです。(p.101-102) 耳は何かを期待