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おうち映画と非日常の娯楽【映画「違国日記」を見て】

映画「違国日記」─────

6月7日に本映画が封切りされて、もうすぐ2週間が経とうとしています。(2024年6月20日現在)

 人嫌いの小説家「高代槙生」を演じる新垣結衣と、オーデションの末に「田汲朝」役を射止めた早瀬憩のふたりがダブル主演となる本作。原作を愛する人もそうでない人も、公開前から大きな関心を寄せていたのではないでしょうか。えーと、うん、たぶん。


 かくいう私も、原作漫画「違国日記」の大ファンとして不安と期待に苛まれながら公開を待ち望んでいたひとりです。
そしてとうとう去る6月15日、曇天の中ひとり映画館へと足を運んできました。帰り道から数日めっちゃ重たい頭痛に悩まされたのはその後関東を襲った爆弾低気圧のせいだと信じたい。大人になってから気圧に負ける日が格段に増えた気がします。

映画の感想ですか。



配信を待っていても良かったかもなあ

(配信してくれるかどうかの保証はもちろんありませんが、最近はなんでもわりとすぐ配信されてるように見受けられますので、無料はともかくレンタルはきっと……早いんじゃないかな……どうだろう……)



……
………何言ってんだコイツって声が聞こえてきそうですね。


まあお待ちください、なにも劇場で見る価値無しって言いたいわけじゃあないんです。



おうち映画向きの作品ってあるよねって話です。


おうち映画、それは誰に気兼ねすることなく楽しむ至高の娯楽。
手のひらに収まるスマートフォンの画面から大画面テレビまで、好きな端末で好きなときに楽しめる、いつだって見始められるしいつだってやめられる。自由度の高さが魅力です。

目の前で映画を流しながらも視界の端にはさっき洗ったばかりの食器が乾かしてあったり、BGMに混ざって冷蔵庫のモーター音や家族の生活音が聞こえてきたりだとか。ちょっとトイレ行きたいから一時停止しようとか、飲み物取ってくるから止めといてとか。そうやって中断しつつ楽しむ日常の娯楽。それが「おうち映画」です。

我が家は定期的に家族で映画鑑賞をしていた時期がありました。いつの間にかやめちゃったけど、今でも両親は一緒に映画を見ることがあるようです。仲良し。


「おうち映画」に対して、劇場で見る映画は、「非日常」の娯楽です。日常的に見に行けるほど映画のチケットってお手頃価格じゃありませんのでね。

ひとつの映画を5回も10回も見に行く方々も中にはまあ、いらっしゃるわけですが。かくいう私も「すずめの戸締まり」は5回見に行ったんですけれども。そのあたり深く語ると来場者特典とかそう言った話に言及することになるのでやめておきましょう。


入口を通って席を探し、映画館独特の柔らかい席に腰を落ち着ける。視界の端から端まで埋め尽くすような大きなスクリーンに映る予告編を眺めながら、手慰みに買った軽食をつまんでいると不意に世界が暗転、映画の世界だけが眼前いっぱいに映りこむ、あの非日常。
現実を忘れ、時間を忘れ、ただ目の前に広がる世界に没頭する高揚感。全て見届けたあと、ふわふわとした余韻に包まれながら劇場をあとにする私の足は、少しばかり宙に浮いてるんじゃないかな、とか想像してみたりして。

全身が映画一色に染まるような「非日常」を味わえる、なにかひとつにどっぷりと浸かれる体験って、今の時代もしかして結構貴重なんじゃないかなあなんて思います。 

だから上映中にスマホの通知を気にする人のことが信じられないんですよね。せっかくの贅沢な時間に、わざわざノイズを差し挟んでいるようで。閑話休題。


さて、話を戻して「違国日記」。個人的には大きなスクリーンで全身どっぷり浸りながら楽しむよりは、日常の延長線上で楽しむ方がより味わえるんじゃないかなと思うのです。
家族の揃ったリビングや、大切な友達と、あるいは、誰の邪魔も入らないひとりの部屋で。いつも使っているマグカップを片手に、視界の端に毎日見ているカーテンが入り込むのを感じながら、ゆっくりと、時間をかけて。その方が、映画の朝と槙生を、彼女たちを軸にしたあの世界の人々をより近くに感じられるんじゃないでしょうか。
この映画で描かれているのは、朝と槙生の「日常」だから。今まで日常の真ん中にいた大切な人を亡くして、それでも毎日を生きていく朝と、様々な想いを抱え、だからこそ笑って、何事もないかのように、何事もないふりをして日々を生き続ける周囲の人々を優しい筆致で描いた、これはそういう映画だから。
だからこそ、非日常の象徴ともいえる大きなスクリーンではなくて、日常に根差した「おうち」の画面で見るのがこの映画にはより似合ってるんじゃないかなあ、と、そんな風に私は思うのです。

 


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