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虎に翼 すべて云ったった!

第14週「女房百日 馬二十日?」
今週も凄かった。見入ってしまう五回分。

とはいえ、放送後にXのトレンドが『虎に翼』の関連ワードで埋め尽くされてしまうほどの圧倒的な人気になれば、逆に登場人物たちの(特に寅子の)強いもの言いや、「すんっ」となってもならなくても、わかりにくい行為や頑なな言動が、さらには実際にリアル世界でこんなふうに奇天烈なヒトがいたらイヤだとか、あんな行動をすること自体、違和感しかない、というように批判したくなる視聴者も、当然たくさん出てくる。

思えば私自身、両親が病に倒れて介護という課題がどーんと降り掛かってくる前後あたりから、芸能人やスポーツ選手などの「家族を大事にする」「誰にでも自慢できる結婚相手と結婚する」系の美談を引き合いに出しては、ああいう子が誰からも愛されるんだ的なことでチクチクとイヤミを言われるたび、親に対してというよりも、テレビの中でプレイするアイドルっぽい女子プロゴルファーを見ると心の中で「けっ」と毒を吐きまくったものです。ひとりっ子でしたから、母親のほうからは精神的なパンチングバッグのように、いたぶられまくっていましたね。

↑この3行を呟いたとき、寅子が今まで穂高に対して言わずに(すんっと)我慢してきたことを「すべて云ったった!」という爽快感からの叫びと共に、私も「よく言った!」と共感しかなかった。まあ、この「云ったった」は、これを書いている時点ではまだ読めていない(リリースされていない)シナリオにそう書いてあった、と法律監修の村上一博教授が連載コラムで述べてらっしゃる。

伊藤沙莉さんが、このシーンを演ずるに当たって、寅子の心理の道筋をどう解釈すればいいかを悩んで、監督に「穂高先生との関係のベースは師弟関係であり、そして父親と娘のような関係性でもある」「父親と娘の愛情が根底にあるという事実の上で、やられた理不尽をきちんと言う」と言われて腑に落ちた、というインタビューも出ています。

そのうえで、第69回の録画を見ている流れのなかで、私は「そうだよ、そうだそうだ、寅子、ちゃんと言えたね!」という爽快感しかなかったもの。だから、あれがわからない。寅子が人としておかしい。という訝しみと反感の声に、あらためて頭を抱えてしまったというか。そんなに、こういう怒りの爆発は、わかりあえないものなのか。

うっかりこんな3行日記を書いてしまったくらい。
いや、こんなふうに自分の過去の体験を重ね合わせて語りたくなってしまう、半年間(折り返しましたが)こんなドラマをリアルタイムで見続けて、だいじょうぶか、私? とまでドキドキしてますよ。

これ、つい最近の「はて?」という事象を思い出しながら書いたけど、記憶を遡れば、私自身が中学高校時代の恩師にやられた理不尽をね。端的には、弟子を自分の出世ゲームのコマにしようとしたって、アカデミアの世界ではホントよくあることなんですけど。かなり酷いことをされたので、いまだに「何があったのか」を私はきちんと言語化できない。母が恩師に謝罪の手紙を書かせて、二度と娘が傷つくようなことはしてくれるな、と一筆を証書のようなかたちで保管していたことも知ってる。なくなった母の遺品の段ボールを探せば、たぶん出てくる。

留学から戻ってきて、和解しようとはしたんですよ。
でも、恩師はやはり「弟子は自分の道具」という思想に染まりきっていて、しかも優しいところはあるけれど根っからのモラハラ気質がむき出し。ということで、寅子の「尊敬はしてるけど、許しません」というのが、ほんっとうに、心の底からよくわかる。許さなくていい。

と、つらつらと書いたうえで以下に私の解釈を。
ホントは冒頭に書くべきだったな。

穂高先生の【雨垂れ岩をうがつ】の発言は、女子部をなくさないでほしい、とヒャンちゃんが(自分は高等試験をもう受けられないとわかっていながら日本に残って勉強会をやってくれた)大学の学長に直談判して、寅子や皆で土下座したときが最初だったと思います。

そして妊娠中の寅子が講演会の直前に倒れて医務室で気づいたとき。「なんじゃそりゃ」「私は今の話をしているんです!」と、法曹の世界は諦めて、雨だれとなれ、と説かれた。

寅子の心が折れかけた、その後すぐに穂高教授は雲野の事務所へ行き、寅子が家で書いた辞表を出すか、それともこのまま雇ってもらえるかも……と迷っていた(その辺、シナリオのト書きで説明があります。ナレーションに回収しなかったのは演出方針かと)ところで、無造作に妊娠を暴露>アウティングして、寅子の心が折れた。

さらに、よねさんとのやり取りも、寅子の心に癒えない傷になっている。もしくは戦争が終わって裁判官としてのキャリアが始まっても、傷口からは血が流れ続けている。

引退していく穂高先生にとって、雨だれであれ、とは、自分が歩んできた道の気分やノスタルジーもしくは「きれいごとの背景」でしかないが、寅子にしてみれば「今の、自分の話」だったということか、と思います。あくまで脚本家が見ているヒロインの世界観でしょうけれど。

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