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10分でわかる!サロメイトのための戯曲「サロメ」入門 〜恋と盲目、あるいは推しと脳破壊〜【前半】

古今東西、世の中には二種類の人間しかいません
推す人間と推される人間です
戯曲「サロメ」も例に漏れず、推し推される人間たちの悲劇なのです

ごきげんよう

サロメ嬢(壱百満天原サロメさん)のことを、切り抜きとMAD、Twitterでしか知らない、20代の一般人男性ですわ

僕の中のサロメ嬢のイメージ

初配信で、住民票経歴書マイナンバカード

そしてなんと胃カメラ画像を晒し、

初配信から14日で登録者数100万人を達成(VTuber史上最速)し、

大型トラックという現代の馬車を乗り回し、

某ロボット大戦に参戦して、心痛めながら敵機撃墜するニュータイプで、

スパチャのお礼に、サロメイトとのコックリさんを申し出る、

ゲーミングお嬢様系一般人女性、サロメマンですわ〜〜!!って感じですわ。

・・・これは、一般人女性ですわね。

サロメ嬢と戯曲「サロメ」

さて、今回はサロメ嬢こと、壱百満天原サロメさんのモデルであろう、
戯曲「サロメ」について「恋と盲目、あるいは推しと脳破壊」をテーマに書いていきます。

宗教やらイエス・キリストやらという小難しいことは抜きにして、
できるだけわかりやすく書くので安心してください。

まず、サロメ嬢の写真と「サロメ」の表紙をどうぞ。

(左)にじさんじ公式HPより引用。(中央、右)Amazonより引用。

サロメ嬢の衣装と岩波文庫版「サロメ」のカバー絵の色似てますね。
(これが言いたかっただけです。

「サロメ」は1891年にオスカー・ワイルドという詩人(&劇作家&小説家)によって書かれました。
現在でも度々上演されており、
書物としても世界中で読まれています。ヨーロッパだけでも数十種の訳、日本でも十数種の訳があるとか。(岩波文庫版「サロメ」の解題より)

戯曲「サロメ」

内容紹介

では、戯曲「サロメ」の内容紹介に移りましょう
今回の前半パートでは、あらすじ〜本文の前半分の紹介&解説をします(3500文字弱, 7分あれば読めます
後半パートで、本文の後ろ半分〜ラスト&まとめを扱います。

まず、岩波文庫版「サロメ」の裏表紙のあらすじを引用しますね

月の光のもと、王女サロメが妖しくうつくしく舞う ーー 七つのヴェイルの踊りの褒章に彼女が王に所望したものは、預言者ヨカナーンの首。ユダヤの王女サロメの恋の悲劇を、幻想的で豊麗な文章で描いた。世紀末の代表作。ビアズレーの挿絵十八点を収録。
岩波文庫 「サロメ」 ワイルド作

「サロメ」が「踊りの褒章」に「王」に「ヨカナーン」という男の「首」を所望する「恋の悲劇」。

とにかくこれで大丈夫です。
今回お話しするのはタイトル通り、「恋と盲目」についてです。
宗教もテーマの一つですが、今回は割愛します

主な登場人物の関係図

では、登場人物の関係図いきます。

戯曲あるあるは、登場人物がわからなくなることです。
戯曲は『(発言者の名前)(セリフ)』みたいなセリフの文だけで、初読者に親切な地の文がないからです。

なので、関係図があればわかりやすいかなって。

パワポで作った「サロメ」関係図(画像は全て、いらすとや から使用)

こんな感じです。ドロドロです。
誰が誰だか分からなくなったら、この関係図をみてください!!
(あと何人か登場人物いるんですが、今回は関係ないので省略)

じゃあ、ストーリーを要約しながら「恋と盲目」についてお話ししますね。
始めましょう。以下、引用は全て、岩波文庫版「サロメ」からです。
※以下、結末までのネタバレが含まれます。

場面説明

まず、場面説明。(戯曲は、場面説明から入ることがよくあります)
※以下、引用では、古いひらがなの使い方をしている原文をそのまま載せます。読みにくかったらごめんなさい><

場面はエロドの宮殿の広い露台。宴会場より高くしつらへてある。兵士たちが露台の手摺にもたれかゝつてゐる。右手に巨大な階段。左手奥にはブロンズ製の緑色の囲ひをした古めかしい水槽がある。月の光。

つまり、
場面は、王様の宮殿の露台(=バルコニー)、

各国からの客人をもてなすために宴会をしています

大きな水槽、後述しますが、実はここにヨカナーンが閉じ込められています。

そして、月の光。

はじまりはじまり

本文の紹介と解説に入ります。

隊長と侍童の会話から始まります。
ここでまた、戯曲あるある、というか、物語あるある。それは、

冒頭文が結末や重要な出来事の伏線になっている

です

知らなかった人は覚えていて損はないです。物語の楽しみ方が増えますね。

それでは、冒頭の半ページほどの会話にいきましょう
※隊長=若きシリア人、侍童=エロディアスの侍童、です

若きシリア人  いかにも美しい、今宵の王女サロメは!
エロディアスの侍童  見ろ、あの月を。不思議な月だな。どう見ても、墓から脱け出して来た女のやう。まるで死んだ女そつくり。どう見ても、屍をあさり歩く女のやう。
若きシリア人  まったく不思議だな。小さな王女さながら、黄色いヴェイルに、銀の足。まさに王女さながらの、その足が小さな鳩のやう……どう見ても、踊つてゐるとしか思はれぬ。
エロディアスの侍童  まるで死んだ女のやう。それがまたたいそうゆつくり動いてゐる。

隊長はサロメに首ったけ。

一方、侍童は、「月は女だ、死んだ女だ」と繰り返し、落ち着かない様子です。

恋と死。不穏な始まり方ですね。

サロメが宴会場からバルコニーに出てきます。彼女は、王が、モグラのような目でずっと自分を見てくることに我慢できなくなったのです。

サロメは外の空気を吸って、羽を伸ばします。
彼女は、王だけでなく、自国の民であるユダヤ人も、客人として来る他国の人も気に入らないらしく、野蛮人・狡猾・残酷・ガサツ・下卑た…と罵倒します。

対して、月は好きのようです。

サロメ  月を見るのはすてき! 小さな銀貨そつくり。どう見ても、小さな銀の花。冷たくて純潔なのだね、月は……さうだよ、月は生娘なのだよ。生娘の美しさが匂つてゐるもの……さうとも、月は生娘なのだよ。一度もけがされたことがない。男に身を任せたことがないのだよ、ほかの女神たちみたいに。

サロメ嬢と一緒で(?)、清楚ですね。

リラックスしているサロメの耳に、水槽の中から叫び声が聞こえてきます。

ヨカナーン  主、来たりたまふ! 人の子は来たりたまふ。今や、半人半馬の怪獣は川底に身を隠し、人魚は川を去って、森の木陰に身をひそめてゐる。

・・・何言ってるんですかね、狂っているんですかね。

ヨカナーンの名誉のために、説明しますと、彼は気狂いではなく、

キリスト教における救い主イエス・キリストの到来を預言した預言者です。
「主」や「人の子」はイエスのことで、ヨカナーンのモデルは洗礼者ヨハネです。

とにかく、ヨカナーンはすごい人です。

サロメはヨカナーンの不思議な声に魅了されて、彼と話すことを望み、兵士たちに命令します。

隊長や兵士たちは彼女の願いを聞き入れません。王様から、ヨカナーンを誰とも話させないように、水槽から出さないように命令されたいるからです

サロメの再三再四の命令は失敗に終わり、
サロメは、自分に惚れ込んでいる隊長を誘惑することで、願いを叶えようとします。
以下、ナラボス=隊長

サロメ  (微笑しながら)お前なら、きつとしておくれだらうよ、ナラボス。それがお前にはよくわかつてゐるはず、お前ならきつとしておくれだらうよ。さうしたら明日、神像買ひの群る橋の上を吊台に乗つて通ると木、きつとお前のはうを見てあげるよ、モスリンのヴェイルの奥から、お前を見てあげるのだよ、ナラボス、笑つてあげるかもしれない、たぶん。あたしをごらん、ナラボス。ごらん、あたしを。あゝ! お前にはよくわかつてゐるはず、お前はあたしの願ひをかなへてくれるつもりなのだよ。お前にはよくわかつてゐるのではないかい?……あたしには、それがよくわかつてゐるのだよ。
若きシリア人  (第三の兵士に合図して)預言者を引き出せ……王女サロメさまがお会ひになりたいと言はれる。
サロメ  あゝ!

あゝ、隊長は誘惑に負けてしまいました!!
王女>>>王様です。恋は盲目ですね。
まあ、推しが自分だけに笑ってくれるとか至上の喜びですもんね、仕方ない。

サロメはなかなか小悪魔です。
お前を見てあげる、きっと→かもしれない→たぶん…、これは絶対見てくれないですね。
行けたら行く、です。

水槽から出てきたヨカナーンの姿を、サロメは次のように例えます

眼は「わけても恐しい」。「ツロの壁掛を松明で焼き貫いた黒い穴」、「龍の棲む暗い洞窟」、「気まぐれな月に掻き乱された暗い湖」

身体は「ほつそりした象牙の人形」「銀の像」、純潔な『月』、「銀の光の矢」

ここで、

ヨカナーン=月=美しい・純潔 ≠ 他の男

という式が成立します。大事ですね。

ヨカナーンに魅了されたサロメは、彼に近づき、しっかり見ようと、会話しようとします。

ヨカナーンはサロメを拒絶し、二人の一方的な会話は成立しません。
ヨカナーンはイエスと神だけを愛しているからです。悲しいことに、始まりからして叶わぬ恋なのです。

しかし、サロメは拒絶されることでむしろますますヨカナーンに関心を持ちます。
王ですら意のままにできる美を誇る王女を拒絶した男に。

サロメは豊かにさらに例えます。

肌は「一度も刈られたことのない野に咲き誇る百合」、「山に降り敷いた雪」、「アラビアの女王の庭に咲く薔薇でさへ、お前の肌のやうに白くはない」、「曙の樹々の葉に落ちる日脚」も「大海原に抱かれた月の胸」も…「お前の肌ほど白いものはどこにもありはしない」……

「さあ、お前の肌に触らせておくれ!」→ ヨカナーン拒絶

ヨカナーン>月 になりましたね。
拒絶する彼に、サロメは一転罵倒を浴びせかけます。

お前の肌は「いやらしい」。「レプラ(=ハンセン病)の肌のやう」、「マムシの這った泥の壁」、「サソリが巣をつくった泥の壁」、「白く塗った墓」、「なかは汚いもので一杯」。

「気味の悪い、気味が悪いよ、お前の肌は!」

しかし、ヨカナーンの魅力には抵抗できません。
すぐさまサロメは言う

髪の毛は「葡萄の房」、「レバノンの杉」、「長い黒い夜」も「月が面を隠し、星も恐れる夜」も「森によどむ沈黙の影」も、そんなに黒くはない。「どこにもありはしない、お前の髪ほど黒いものなんて」……

「さあ、お前の髪に触らせておくれ」→ヨカナーン拒絶

ATフィールド全開ですね。
またもやサロメは仕返しに罵ります

お前の髪の毛は「気味がわるい」。「泥や埃にまみれてゐる」。「額においた茨の冠」、「首に巻きついた黒い蛇」、「あたしはお前の髪の毛が嫌ひ」

すぐツンツンしちゃう王女様。そして、すぐデレデレしちゃう王女様

唇は「象牙の塔に施した緋色の縞」、「象牙の刃を入れたザクロの実」、「薔薇より赤いザクロの実」も「血なまぐさいラッパの一吹き」も「赤い、踏みつぶす葡萄のしるに濡れ輝く酒造り娘の足」も「神殿に遊ぶ鳩の足」も…(長いので省略)…もお前の唇ほど赤くない……

「さあ、お前の口に口づけさせておくれ」→ヨカナーン拒絶

しかし今回ばかりは、サロメも諦めません。なにせ推しの唇ですからね
サロメに夢中な隊長は、ヨカナーンに夢中なサロメをみて、脳みそ壊されています。推しのこんな姿見たくなかった……

サロメ  あたしはお前の口に口づけするよ、ヨカナーン。あたしはお前に口づけする。
若きシリア人  王女さま、王女さま、あなたはミルラの繁み、鳩の鳩、そのあなたが、見てはなりませぬ、この男をごらんになつては! この男にそのやうなことをおつしやつてはなりませぬ。耐えられませぬ……王女さま、王女さま、そのやうなことをおつしやつてはなりませぬ。
サロメ  あたしはお前の口に口づけするよ、ヨカナーン。
若きシリア人  あゝ!

  その声とともに、おのれを刺し、サロメとヨカナーンの間に倒れる。

あゝ、隊長は耐えられずに自死してしまいました…。

もしくは、サロメとヨカナーンというカップルの間に入ったために圧死したのかもしれません。百合の間に挟まるべからず、と言いますし。今回は、サロメの片思いなんですがね。


えーー、やっと前半戦終了です。ここまでで4900文字弱。
読んでいただいた方、ありがとうございます。
次回、後半からラストまで書いていきますので、よければお付き合いください。

前半パートで質問やもっと知りたい点、誤字脱字、感想等あれば、気軽にコメントでお申しつけください。


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