物書きとマジシャン#4
そういえば、この間の皮はどうなったのだろう。ラナフさんと師匠が荷車にせっせと降ろす中、僕も持てる分は手伝った。
その後、荷車はオルゴンという男性が引き取りに来た。色黒の大きな人だったのを覚えている。
僕に居場所をくれた師匠だから、もちろん尊敬しているし、これからさらにその思いは強くなるだろう。
近所の人だってそうだ。
師匠や奥さまの前だからかもしれないが、とても親切にしてくれる。
よほど何かされないか、していない限りは、他人として敬う感情を前提に置いた上で接するのはごく自然なはずだ。
なので、わざわざ上下関係を強く意識せざるを得ない窮屈な環境に持って行く必要は無い。
そんなわけで、師匠が今まで通りの師匠で居てもらうためにも慌てて話題を変える質問をする。
師匠、ラナフさんのあの皮たちは一体どうなったんです?と尋ねると、ああそういえばと師匠が何かを探し始めた。
よかった、危ないところだった。
「これさ。」
これは、紙のようだ。
「あの中でも良いものは服や靴なんかの材料になる。そして、それ以外のものはこの紙のように加工をするんだ。」
「オルゴンという大きな男が来ただろう。あいつはサウスから来たんだが、うちの商人団体の、加工場を任されているやつだ。」
「服や靴の材料分は専門店の連中に売るんだが、紙だけはどうしても高くついてしまう。そこで、サウスからの出稼ぎ労働者やノスからの逃れ者を雇って、紙を作ってるってわけさ。」
「あの皮で作った紙は長持ちするし、インクの乗りも悪くない。契約書や本みたいな貴重な物に使われるから、紙に加工したものは1枚あたり銀貨15枚から20枚で売れるんだ。」
銀貨15枚から20枚!
「ただ、出来上がるのに1か月くらいかかるから大変なんだ。」
そりゃ貴重なはずだ。
「うちも少し出資したから、分け前が入ってくるんだぞ。ラナフに渡したあの証書の紙だってそれさ。」
へえ、そんな仕組みがあるんですね。
「そう。普通に買うと高いが、身内となるとわずかだが現物で分け前がある。それも、その加工場が順調なうちか、売り払わない限りはな。」
「贅沢な物だが、必要な物なら買わないわけにはいかない。この辺りだと塩や砂糖、そして澄んだ水は貴重品だな。」
覚えておくといい。
そこまで師匠が話をしてくれると、涼しい風がふっと頬を撫でたと思えば、サーっと雨が降り出してきた。
「メル、布が濡れちまう。引っ込めるぞ。」
わああ、大変だ。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。
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