物書きとマジシャン#12
「ようアレン、今日は早いな。」
「少しばかり現金をくずしてくれないか。
あと、」
「ん?」
「こいつに金貨を見せてやってくれ。」
さすが商館の主という恰幅のよさで、物語であれば語らずともいかにもという人物だ。
そういえば自分でも最近気がついたが、目を見ればその光具合というか、まなざしで良い人なのか悪い人なのかおおよそ見当がつくようになってきた気がする。
「ああ、なるほどな。
いいぞ、見せてやろう。」
師匠は毎日ではないが、まとまったお金のやり取りがあると、ここへ預けにやってくる。するとこのあたりには食材を売る店もあったりするので、帰りがてら寄るわけだ。
街はずれの自宅へは若干遠回りになるが、まあ大した手間にはならない。
「…どうだ、だいぶ年代物になっちまったが、綺麗なもんだろう?」
これがメイサの金貨…。
すごく細かく造られている。
「銀貨のデザインをより細かくしたようなものだな。
日常で使うには額面でも荷が重いから、わりと綺麗なもんだ。」
「それにしてもだな、別にしていた物じゃないのか?」
「わかるか?
細工の綺麗なものは収集したい質なんだ。」
「その見た目でか?」
「おいおい、言ってくれるじゃねえか。
表に出るか?」
ははははと笑い声が建物に響く。
「イリスの金貨も似たような感じだな。」
ほんとだ。
こちらの細工も同じ場所で作られていることを十分に思わせる。
その横で師匠が現金を数えながら言う。
「へえ、ザルツにこんな趣味があったとは知らなかったな。」
「悪かったな」
「見た目じゃないさ。」
ほかに手元にあるものを数枚見せてもらう。
金貨には興味はあったもののなかなか手にしずらいものだし、下手に手にしていると何かを疑われそうなのでなんとなく避けてきたが、お金としてではなく集める気持ちが解る気がしてきた。
「面白いだろ」
はい
「また、他のが手元にある時はそれも見せてやろう。」
ありがとうございます!
「お、そうだ。
正式に例の警備の編成が決まったぞ。」
「おお、そうか。
そりゃあよかった。」
「お前さんが珍しく熱を入れてたもんな。」
「これから息子も心配だしな。」
「それだけか?」
はははとザルツさんが笑いながら言う。
「連盟が功労者を称えるってよ。
アレン、お前さんの名を出していいかい?」
「え?なんでまた」
「連盟もメンツがあるんだろう。
今までさんざん揉めてきただけだったからな。」
「いやいや、俺は何もしちゃいないさ。
第一、その話の出所はメル、こいつが危ない目にあって出た話なんだ。」
「しかし、お前さんが会合で言い出さなきゃ無かった話だぞ。」
うーんと師匠が何かを考えているようだ。
「そういや、警備の連中を集めて調べて選んだのはヴォルフだろう?
他の商団の連中とも仲が良いからって。
ヴォルフにしてやれよ。」
「ヴォルフか。あいつの酒場は親父さんも元気だし、時間があるからって引き受けてくれたんだったな。」
「あいつの人脈には敵わんよ。」
「違いないが、、いいのか?」
「良いって、ぜひそうしてくれ。」
「わかった。」
じゃあまたなと師匠と商館の扉を開けて出ると、すっかり陽は落ちて星空がくっきりと広がっている。
「ちょっと長居しすぎたな。」
はははと笑う師匠。
良かったんですか?
「ん?何がだ?
ああ、早く帰らんとな。」
いえ、連盟が出すという名誉の話です。
「ん、ああ、良いんだよ。実際話した通りだしな。
それに、、」
それに?
「名誉は他人に譲ったほうがいい。」
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。