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あり得ない日常

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2024年5月の記事一覧

あり得ない日常#60

「わあ、こんなところがあるんだ。」  日常の雑踏から逃げるように、少しばかりローカル線で内陸に向かうと同じ空の下とは思えないほどの自然が広がっていて、ようやく厳しい寒さから息を吹き返したかのように、木々も、そして生き物たちも試練を乗り越えた喜びを分かち合っているようである。  噂には聞いていたが、山間にある有名な神社を囲むように広がる桜はそれは見事で、地元の人も、また観光の人も見わけが付かないくらいに、それぞれが鮮やかな春の景色を楽しんでいる。  陽が落ちればまだ寒い時

あり得ない日常#59

 本人がどう思っていようと周囲や社会は歩を進め続ける。  「価値観を押し付けるな」という価値観を誰かに押し付け続ける限り、周囲はあなたに手を差し伸べることは無いだろう。  人間なら他にも掃いて捨てるほどいるからだ。  貴族という世襲を含む特権階級支配社会では、後継ぎの無能に無条件で権力が引き継がれる愚かさが顕現したようなどうしようもないものだったが、それから遥かに進歩した現代社会でも、まだ不完全で改良の余地はある。  そこに、地中深くからわざわざ掘り出してきて、自らが

あり得ない日常#58

 信用は、より実績に伴う。 価値観と発言力への信用は人間性と実績次第だろう。  かつて世界は危うく核戦争へ突入し、人類は滅亡の一歩手前までいったが、将校の一人が承認を拒否したことで回避されたという。  キューバ危機の最中、核を搭載した潜水艦が周囲の爆撃から逃れるために海中深く潜航、電波が届かないため外部からの情報から断絶された。  状況からすでに開戦したのではと判断。 核攻撃を艦長と将校2人の合計3人で決め、実行しようとしていた。  しかし、1人が承認を拒否し、核攻撃

あり得ない日常#57

「いいかもね。ちょっと考えていい?」  急いではいないようですが、返事は出来るだけ早く欲しいそうです。 由美さんから聞いたままを伝える。  由美さんの活動を応援する人は少なからずいるが、その人たちの中に後継ぎがいないので事業を引き継いでくれる人はいないかという話をしている人がいた。  長らく自治体のごみ収集事業を請け負ってきたが、自身が高齢になるにつれて誰かに譲れたらと考えてきたそうだ。  いち従業員としての立場をあくまで出ない社員に譲るわけにもいかない。要は、混乱な