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受け継がれるもの、追憶

まだ、ベッドにいるわたしにコーヒーを手渡しながら、彼は吐き捨てるように言った。
日本人はバカね!

少し、離れて部屋を出て行きかけた彼に
静かに話しかける。
日本人はね、完成形を維持するのよ?

カンセイケイヲイジスル?

流暢な日本語を操る中東欧出身の彼は、
出逢って間もない女の子に、唐突にこんなこと言われたのは初めてらしかった。

それと、ね。

一期一会って、知ってる?

イチゴ?え?イチゴ…

日本に来たのは随分前のこと。わたしと出逢う前の彼を知ってる女は、かなり年上の手慣れた美人だったみたい。
だって、隠そうともせずに、わざわざヌード写真が飾られる部屋に、わたしを招き入れたのだ。

少し前の彼の愛してたひと。きっと、忘れないひと。

そんな存在が在りながら、抱かれてしまったわたし。嫉妬?そんなの、感じない。

彼は、世界がモノクロに見えている。
今は、色のついた世界にいるわたしだけが
見えるかのように、子供の頃はね、あの時はね、…まるでカウンセラーに話すように、
紛争事態にある故郷から逃れてきた話をする。

日本に来た、理由は?

経済!!

明確な答えが返ってきた。
USAではなく、JAPAN…

何故、色っぽい話にならないのか。
わたしはまだ、二十歳になったばかり。
女の子として、精一杯の女を演じていたのに。

アラブの春は冬になり、世界が狂っていた最中に貴方は生まれたのね?

嘘の名前を呼ばれながら、このお遊びの小娘にそんなことを唐突に言われて、きっと何かがバランスを崩したのだろう。

ユカチャンは、ヤッパリバカジャナイ。

そう言って、わたしの頭を撫でる。
キスは下手だね?

何度目かのデートを繰り返し、数えられるくらいのSEXの後に、わたしは初めての告白をされた。貴女のことを好きになりました。

かなり歳の離れた異国生まれの彼の名は、
本当かどうかもわからない。

でも、ハッチャンと呼んでください。

彼はにこやかに、そう言った。

最初は遊びだったけど、ユカチャンが好きになってしまった…

わたしは、彼の目から感情を読み取ろうと
必死に腕を掴み、ハッチャン!!
彼を呼んだ。

朝早くに、彼はいきなりわたしの住むアパートへやってくるなり、いつもより激しくわたしを抱いた。

ユカチャン、俺を殴って‼︎

出来ないよ…

わたしが微睡んでいる間に、ハッチャンは居なくなっていた。

電話が鳴り、目を覚ました。
彼からだった。

最後のエッチは気持ち良かったね!!

空港からの気配がした。
ハッチャン!!

それが、最後の電話だった。

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