見出し画像

終わりに:音楽を創る人たち

ファイナル当日、私たち特級公式レポーターは、サントリーホールの客席からリハーサルを見学させてもらっていました。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団とファイナリスト達の、最後のリハーサルです。

会場いっぱいに広がるオーケストラの音。前日の別会場でのリハーサルでも十分な迫力を感じましたが、さらに大きなまとまりと華やかさを感じます。
それがサントリーホールの力なのか、本番直前の集中力と高揚感によるものかは分かりませんが、全く別のオーケストラと言われても納得したかも知れません。

その中で指揮台に立ち、ソリストやコンサートマスターと最後の調整をするマエストロ・飯森範親さんは、「何があっても、今日、この音楽とソリストを守る」という覚悟がみなぎり、恐ろしいほどでした。

その愛ゆえの気迫に溢れた表情を、私はここ何日かに出会った人々の中に、何度も見た気がします。

同時進行で行われる各級の予選・本選を現場で運営したかと思えば、配信に登場し、さらにはプログラムノートまで書くという、一人で何人分もの役割を担っていたKさん。Kさんとともに現場を進行し、特級公式レポートの文章を、休日だろうが夜中だろうが、すぐにチェックしてくれたHさん。
おふたりは一体、いつ寝ていたのでしょう。

会場の響きを確かめながら調律をされていた調律師さん。高度な画質と音質のリアルタイム配信を実現した林浩史さん(特級公式レポーターの小原遥夏さんによるインタビューはコチラから!)

穏やかに、でも少しの変化も見逃さない、という佇まいで立っていたステージマネージャー。感動的な写真を撮ってくださった公式カメラマンの方々。

撮影の様子を撮影

私の目に見えないだけで、もっともっとたくさんの人が動いていたのでしょう。そこにいる全員が自分の役割を把握し、他の人の動きを見ながら、最善の働きを判断し、動いているのが感じられました。

今日のソリスト達に一番の演奏をしてもらう、ひいては未来の日本を担うソリスト達を支え、次世代につないでいくという使命感が、全員を動かしていたのだと思います。

ふと手元のプログラムに目を落とすと、ピティナの正式名称、「一般社団法人 全日本ピアノ指導者協会」の文字が目に入りました。改めてコンクールの主役は、コンテスタントだけでなく、それを支えた指導者の方々やご家族、審査員の先生方、そして今会場にいる私たち聴衆でもあるのだと感じました。

コンテスタントを表彰式に送り出すスタッフのみなさん

やがてたくさんのお客さんで埋まったサントリーホールで、ファイナリストたちの演奏が始まりました。100年、200年近く前に作曲された音楽を若いコンテスタントが全身全霊で演奏するのを聴きながら、どの時代にも、今日と同じような使命感を抱いて音楽を支えた人たちがいたであろうこと、そしてその連続が今日まで音楽を引き継いできたことの不思議と奇跡を思いました。

偉大な作曲家や演奏家を周りの人々が支える様子を、もし大きな目でひとときに眺めることができれば、星座を形づくる星の連なりのように見えることでしょう。今年は私もその星座の中にいて、少しの間、コンテスタントたちと、その周りで音楽を支えた人達を見つめさせてもらいました。

大変に得難い経験をさせていただいたと思います。音楽を愛し、独自の表現で思いを綴る個性的な特級公式レポーターの皆さんとの出会いも、かけがえのない思い出となりました。

先週、今年のすべての級の開催が終わりました。すべてのコンテスタントたちの、ピアニストとしての新たな日常が始まっていることでしょう。

またみなさんの演奏が聴ける日を、心から楽しみにしています。

結果発表直後、インターネットでの発表の最終確認をするKさんとHさん


(トップ画像提供:ピティナ/カメラマン:石田宗一郎)
(文中写真:山平昌子)